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望むのならば、仰せのままに。
そのための手段は、趣くままに。



クリスマスプレゼント



0と1の世界を掻い潜り、目当ての宝物を覆う建物のシステムを垣間見る。
こじ開けるまでもなくそのシステムに正面から入り、ダミーを見破り、トラップを躱す。
それらに容易く引っ掛かって、警報を鳴らすような間抜けな真似は、決してしない。
(分かりやすいねぇ、ダメだろそれじゃ)
デジタルの視界に、淡い緑の光の線で通路が描かれていく。縦に、横に、上に、下に。
目当ての建物の見取り図を、システムから直に奪い取っていく。一階、二階、
三階へ、そして地下の構造も。
序でに警備のガードロボの数、セキュリティレベル、迎撃部隊の機能情報を。
次から次へと、自身が望むままに欲しい情報をシステムから引き出していく。
しかし相手はその事実に気付かない。大切に守っている情報が、今まさに根こそぎ
奪われていることなど。
大切に守っている宝物の場所が、割り出されようとしていることなど。
(はい、みーっけた、と)
相手方にハッキングを気付かせないまま、フラッシュマンは隠された目当ての
宝物の場所を割り出した。
その情報をメモリに入れ込み、そのシステムから出て意識をスタンバイモードの機体へと戻す。
機体に戻り、ゆっくりとアイセンサーを起動させると、夜の闇に明るい光を
携えた街の夜景が視認された。その中に、一際大きく確認できる研究施設。
彼の目当ての宝物を隠し持っている、大きいだけのただの箱。
大層な建物の割にチンケなシステムだなオイ、と楽しそうに彼はぼやく。
ネットへのアクセスポイントから左手のコードを外し、立ち上がって景色を
見下ろした。賑やかな、いい夜だ。騒ぎを起こすのにちょうどいい。
フラッシュマンは今、ワイリーの命でこの場所に任務に赴いていた。
内容は、彼の得意とする情報と、施設内に隠された目当てのものの奪取、及び
目標施設の破壊。表向きは軍に武器を提供する研究施設だが、彼らの父が夢と
することを、その施設の人間も目指していた。
身のほど知らずが、と彼は回路の中で小さくごちる。
欝陶しい。
邪魔なのだ。
父の、自分達の目的の邪魔になるのだ。
そんな悪い子はどう料理してあげましょうかねぇ、と、ワイリーの創りだした
六人目の機体は残酷に楽しげに笑う。
その彼の通信システムに、基地にいる父からの信号が感知された。
「どうじゃ、やれそうか、フラッシュ?」
通信システムを作動させると、父の声が聞こえた。
「あれ、心配なんスか?」
その声に冗談めかして声を返す。すると、父はどこかお決まりのように少し呆れた声を返してきた。
ワイリーは、六人目の息子がデジタルに秀でていると同時に、悪戯好きな性格を
していることを知っている。
「一応聞いただけじゃよ、ハッキングはお前の得意分野なことはワシが一番
 よく分かっとる、ただ、遊びすぎるな、と言いたいだけじゃ」
「へーい。まぁ、適当に上手くやりますよ、博士」
父の遠回しの小言を流し、それに隠れた心配を安心させるようにフラッシュマンは言葉を紡ぐ。
すると、今度は少し申し訳なさそうな父の声が聞こえた。
「すまんな、クリスマスイブに」
「なーに、ちょうどいいじゃないッスか、クリスマスプレゼント楽しみにしてて下さい」
すまなそうな父の声に、フラッシュマンは楽しげに声を返して通信を終えた。
今夜は、生誕祭前夜。騒ぎを起こすのにちょうどいい、とフラッシュマンは
片頬を上げて皮肉に笑う。
日付が変わる頃には父に土産を持って帰れる。それこそ今のイベントにお誂え向きだ。
それまで、あの研究施設をどう引っ掻き回してやろうか。施設を見つめたまま
フラッシュマンは笑みを深めた。父の望むものが、そこにある。父の邪魔者が、そこにいる。
ワイリーの六人目の息子は面倒臭がりだが、同時に酷く悪戯好きな性格をしていた。

父が望むのならば、仰せのままに。
しかし、そのための手段は、自分の気分が趣くままに。



おわり
2008年12月24日 更新

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