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破壊の両手。
その手で可能なことは。



昼寝



「フラッシュ、暇か?」
広間の数人がけ用のソファに座って、フラッシュマンはカメラの調整を行っている。
その彼に向かって、クラッシュマンが背後から声をかけた。
「あん? 何か用か、クラッシュ?」
いきなり背後から声をかけたすぐ上の兄機体に、フラッシュマンは振り向かず声だけを向けた。
その弟機体の両肩に腕をかけのしかかり、クラッシュマンはつぶやく。
「いや、特には」
「…はぁ?」
兄機体の答えに、フラッシュマンは呆れたような声をあげて顔を向けた。
間近にあったクラッシュマンの顔と顔を合わせる。
その兄機体のアイセンサーは、つまらないのだと言いたげに弟機体を見ていた。
ソファの前のテーブルに、フラッシュマンがカメラを置く。
「…要するに、単に暇つぶしかよ」
「まぁ、そうだ」
「んで、俺に付き合えって言いてぇわけか?」
「うん」
フラッシュマンの問いに、あっさりとクラッシュマンが答えた。
「俺今忙しいんですけど」
「そうは見えん」
「てめぇなぁ…てか、重いんだよさっきから。どけ」
「イヤだ。暇だ。構え」
ますます呆れた声を上げる弟に、クラッシュマンは更にのしかかった。
兄弟機随一の耐久を誇る強固な装甲を持つクラッシュマンは、小柄な体格の割に機体が重い。
その兄に背後から重さをかけるように乗られフラッシュマンが前のめりになる。
「あああぁもー! 分かった、分かったからどけ!」
その兄の重量に根をあげ、フラッシュマンが声をあげた。
しかし、クラッシュマンはそのままソファの背もたれを乗り越え、弟の体を仰向けに
させてまたのしかかる。
「何してんだ馬鹿、どけっつってんだろ、重い!」
「乗ってたら構ってくれるみたいだから、イヤだ」
「構う構わねえじゃねえよ、おーもーいっつってんだ! どけ!」
「やだ」
押し退けようとする弟の腕を、兄がハンド形態に切り替えた手でかわす。
その兄に対し、苦しそうに、しかし完全に体重をかけていないことを
分かっているらしい弟は、呆れて少し笑っていた。
破壊を象徴する手を、その体すら傷つけたことがある自身の手を気にする
ことなく弟が掴む事に、クラッシュマンも微笑むように笑う。
二人して笑いながら、戯れ合うような攻防を繰り広げた。
「またじゃれてるのか、お前たち」
その様子を、いつの間にか近くで眺めていたエアーマンが声をかける。
彼もまた呆れているようで、しかし少し笑っていた。
「またって何だよ、エアー兄貴」
「エアー、何か用か?」
次兄の声に戯れ合うのをやめて、二人がエアーマンに声をかけた。
「いや、お前たちの声がしたからな」
「何だよ、小言言いに来たのか、兄貴?」
「それもある、少しうるさいぞ。だが、もう一つ、こっちは忠告だ」
「忠告?」
「もう少しでメタルが来るぞ。せいぜいまざられないようにな」
そう言葉を残すと、次兄は弟機たちを一瞥し部屋から去っていった。
ブラコン気味な長兄は、弟たちの戯れ合いによくまざりたがる。
それだけなら問題はないのだが、肩の装甲のメタルブレードが問題だった。
クラッシュマンには効かないのだが、フラッシュマンや、彼だけでなく
バブルマン、ウッドマンもメタルブレードを弱点としていた。
そのため、長兄にじゃれつかれると下手したらダメージもおまけで付いてくる。
次兄の言い放った言葉に、特に動じていない様子のクラッシュマンとは対照的に
フラッシュマンが青ざめた。
「ちょ、どけ! 今すぐおりろ! マジでどけ!」
フラッシュマンが焦りながら自身に乗っている兄機体を見上げ、訴える。
焦りだした弟を見ながら、クラッシュマンは少し思案した。
「…やだ」
「ああ!?」
「眠くなってきた。寝る」
「…あ?」
「寝てたら、メタルは邪魔しない」
「な……」
「だから、寝る」
あっさりと言い放ち、クラッシュマンはフラッシュマンに抱き付いた。
兄機体の言葉に呆気にとられていたフラッシュマンは、少しして呆れたようにため息を吐く。
「…何で抱きついたままなんだよ、重いっつーの」
「抱き枕」
「死ね」
「お前も寝ろ」
「…うるせえよ」
弟機体たちの眠りを妨げるようなことを、ブラコンの長兄は絶対にしない。
それを知っているか知らないが、弟がスリープに移行し始めたことをクラッシュマンが感知した。
破壊するばかりのこの両手でも、弟を包み守ることは出来る、とクラッシュマンは思う。
小さく微笑んで、弟機体を抱き締めクラッシュマンもまたシステムをスリープに移行させた。
そのまま二人、ソファで昼寝をする。


破壊の両手。
その手で可能なことは。
包み込んで、守ること。


そんな二人を傍にあったカメラでメタルマンが激写し、フラッシュマンが
恥ずかしさのあまり激怒することになると、二人はまだ知らない。



おわり
2008年11月19日 更新

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