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普段は少しもないくせに
だからこんなにも落ち着かない



喧嘩仲間



任務が終わって、気持ち良く帰還して、父のもとで報告した。
父は嬉しそうな顔で褒めてくれて、いたわりの言葉をくれた。
そのまま気持ち良くエネルギー補給に行こうとしたら、ラボから出る前に体に異変が起こった。

「っ…!?」

ラボ内に響いていた機械類の駆動音が消える。
その駆動音が再び聞こえだしたとき、その場にがしゃん、と倒れこんだ。
その音に、周りの駆動音とともに固まっていた父が声をあげた。
「クイック!? どうしたのじゃ、クイック!?」
駆け寄る父に反応できないまま動かない機体を呪いながら、クイックマンは鈍い
回路で悔しげに唸った。
(せっかく、いい気分…だった……の、に)

クイックマンはそのまま、父の心配そうな声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。




メンテナンス台の上に、至極不機嫌そうにクイックマンが上半身を起こした体勢で乗っている。
隣に立っているのは父と、ひどくバツが悪そうな様子のフラッシュマンだった。
「わりぃ…お前今基地にいねえと思ったからよ…」
「クイックの帰還が予定より大幅に早かったからの、タイミング悪かったな」
「……………」
フラッシュマンがもう幾度目かの謝罪をする。
フラッシュマンは、クイックマンが任務に出ていていないと思い、タイムストッパーを使ったのだ。
しかし、ワイリーの言葉の通り、予定より大幅に早く帰還していたクイックマンは
もろにそれに鉢合わせ、ダメージを受けてメンテナンスの羽目になった。
ただただタイミングが悪かった、としか言えない状況にクイックマンはますます機嫌が悪くなる。
「…………」
ああ、腹が立つ。
クイックマンはそう思いながら、視線は動かさず声だけを弟に向けた。
「……何でタイムストッパー使ったんだよ」
「……や、その…メットールが…すまねぇ…」
「はあ!?」
ひどく言いにくそうにフラッシュマンが部下の名を口にした。
意外すぎる言葉に、クイックマンが青い弟に不機嫌な顔を向ける。
「や、ホントわりぃ…メットールが足滑らせて、持ってた……っつか、頭に乗せてた?
 E缶がふっとんでジョーにぶつかりそうになったのを止めようとしたんだよ。
 お前今いねえと思ってたから、大丈夫だと思って」
つまり、なにか。部下を助けんがために、特殊武器を発動させたのか、いくら
いないと思ったとはいえ兄を差し置いて。
クイックマンがぼんやりそう考えると、その考えを表情から読み取ったらしい
フラッシュマンがまた謝る。
「マジで悪かった」
「う………」
自分に非があるためであろう、珍しく素直に繰り返される謝罪とその表情に、
クイックマンはだんだん居心地が悪くなってきた。
この弟機体とは、仲が悪いわけではないが良いわけでもなく、たまに…寧ろよく言い争う間柄だ。
いつも無愛想で口が悪く、兄を兄とも思わない態度の弟の姿ばかり見ていた為か
フラッシュマンのこんな声も顔も、クイックマンは接したことが殆どなかった。
部下に優しいらしい弟に、本当は非がないことにクイックマンは気付いている。
何より、その声と表情に落ち着かない。
「…もういい、お前が謝ると気持ち悪い!」
「……んだと!?」
一瞬惚け、次いでいつもの無愛想な表情を不機嫌に歪め、フラッシュマンが
クイックマンを睨み付ける。
「人が下手に出てりゃ調子こきやがって、このデコ野郎が!!」
「気持ち悪いんだ、仕方ないだろう!!」
「知るか! 大体、お前の帰還が早すぎんのがそもそも悪いんじゃねえのか!」
とたん、いつもの言い争いのような状況に陥った。
いつもの弟に戻ったことに、クイックマンは罵りながらも回路のどこかが安堵する。
普段は少しも悪かったなんて態度しないくせに、だからこんなにも落ち着かない、
そうクイックマンは思った。
その様子を見守っていた父が、やれやれ、と微笑んだことに息子二人は気付かない。


「仲いいよね、あの二人」
「そう見えるの、バブルだけじゃない?」
しみじみとつぶやいたバブルマンに、ウッドマンの膝のうえのヒートマンが突っ込む。
「喧嘩仲間って感じ、バブルあんちゃん?」
「まあ、そんな感じ」
三人は、ラボから広間まで聞こえてくる怒鳴り声を聞きいていた。
いつものこととはいえ煩いな、と思いながら。


このあと、喧嘩した二人は次兄に捕まり、盛大な説教を食らう羽目になる。



おわり
2008年11月9日 更新

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