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赤と青。先行くことを好むのと、瞬間を愛すること。
それは相反するものだけど。



手合せ



「フラッシュ! 手合せ付き合え!」
「お断わりしまーす」
基地の中、クイックマンの声が響き渡る。
室内プールのプールサイドで、プールの中にいるバブルマンと喋っていたらしい
フラッシュマンは、突然現れた兄機体のその声に、そっけなく返した。
声をあげる姿を目にした二人は、何も目当ての兄弟機の姿が見える場所で仁王立ちで
叫ばなくてもいいだろう、と心の中で思う。バブルマンが苦笑いを浮かべた。
この二人の弟機体は、色んな所が対象的で、掛け合いがおもしろいと思う。
「フラッシュ、速答することないじゃん」
「そうだぞ、たまには相手をしろ! 今日こそお前の武器に勝つ!」
クイックマンが高らかに言い放った。
兄弟機で最速を誇る彼は、自身の弱点武器を持つフラッシュマンに手合せを要求しているのだ。
しかし当のフラッシュマンは、にべもなく断りの言葉を口にする。
「いーやーだ、面倒臭え」
「む!」
やる気のない返事をする弟機体に近づき、クイックマンは三度目の声をあげた。
「フラぁあーッシュ! てーあーわーせ…」

途端に、ほんの一瞬だけ空間が光り、時が凍り付く。

「ぃやっかましい、この大馬鹿野郎! 聴覚センサーがいかれるだろうがっ!」
ほんのわずかにクイックマンの弱点武器を発動させて、フラッシュマンが怒鳴った。
クイックマンはわずかだが、いきなりのタイムストッパーの発動に立ちくらみをおこし、膝をつく。
「くっ…不意打ちとは、卑怯だぞ、このっ…」
突然の攻撃に、クイックマンが悪態を吐くと、呆れたような怒声が頭上に降り注いだ。
「黙れアホたれ、大体お前、博士にメンテの呼び出し食らってたろうが!」
フラッシュマンの声に、ぎくり、とクイックマンの表情が固まる。
クイックマンは、メンテナンスが大好きだった。
戦うために、最速を誇るために必要な、大切なこととして。
ただし。
クイックマンは情けない顔で、青い、二つ下の弟機体を見上げた。
「いっ…いやだっ! 今度のメンテはただの状態検査だから…」
強さに何の関係もないメンテは、大嫌いだっ!!
クイックマンは膝をついたまま、今度は自分が仁王立ちしたフラッシュマンを見上げて言う。
「状態検査も十分必要なことだろうが、おら来い、ラボ行くぞ!」
無情に言い放ち、膝をついている体の胴体部に腕を突っ込み、フラッシュマンは
クイックマンを肩に担ぎ上げた。
「イヤだああ! くそっ…お前、こら、下ろせ! 下ろして俺と戦えぇ!」
「さっきお前膝ついたろ、だから俺が勝ちましたー。もっかいタイムストッパー
 食らいたくなかったら黙ってろ」
往生際悪くわめくクイックマンに、フラッシュマンが冷静に言い放つ。
「いってらっしゃい、クイック。フラッシュ、よろしくねー」
完全に弟のペースだ。
そう思いくすくすと笑いながら、バブルマンが二人に呼び掛ける。まったく、
あの二人はどっちが兄で弟かわからない。やはり対象的でおもしろい、とバブルマンは思った。
「バブル、助けてくれ!」
「ん、じゃーな、バブル兄貴。邪魔したな」
声をかけた緑色の兄機体に、クイックマンは助けを求め、フラッシュマンはひらひらと
背を向けたまま手を振った。
赤い機体と青い機体。
先行くことを好む弟と、時間を止め瞬間を愛する弟。
相反することを好む二人だけど、何だかんだでうまくやっている、とバブルマンは
思いながら、とぷりと水に潜った。


(喚き声が、ちょっとうるさいからね)


そのまま、ラボまでクイックマンの喚き声が途絶えることはなかった。



おわり
2008年10月29日 更新

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