Main

□お礼
2ページ/7ページ






(……)



(………………)



(…………………………?)



いつまで待っても、予測された衝撃はこない。
それどころか、ロールは自身の体が何かに包まれ、ゆらゆらと揺れている
ような感覚を認識した。
(あ、…あれ?)
不審に思い、ロールが薄く片目を開けると、自分の赤いワンピースと、それを
包み込むように抱えている青い腕、黄色い大きな手がアイセンサーにうつる。
(え…?)
何者かに、ロールは片腕で抱き抱えられていた。
「ようガキ、大丈夫か?」
抱えていた少女がキョロキョロと動きだしたのに気付いたらしい、ロールの頭上から
男の声が降ってくる。
「…え、え?」
慌てて見上げると、青い機体色の男性型のロボットがロールを見下ろしていた。
道路上ではなく歩行用の通路を、左腕にロールを抱え、右腕で買い物袋を持って男は歩いている。
男性型のロボットは、ロールの分だけでなく自分の分の買い物袋も持っていた。
家庭用のお手伝いロボットというには変わったいかつい風貌だ、とロールがどこかで思う。
その二人の背後で、先ほどの運輸装置が走りさっていった。
「大丈夫みてぇなら、降ろすぞ」
「あ、あの、わ、わっ」
男が立ち止まり、するり、とロールが男の腕から降ろされる。
どうやら自分はぶつかりそうだったところをこの機体に助けられたらしい、とロールが把握した。
「……??」
しかし、どうやって。
目の前に迫っていた運輸装置は何事もなかったかのようにもう遠くを走っている。
救けだされた衝撃も、抱き上げられた感覚もなかったのにどういうことなのか。
わけが分からない、とロールはその運輸装置を目で追い掛けた。
まるで瞬間的に移動でもしたようだわ、とロールが考え込む。
とたんに、その考え込んでいるロールの頭を、べし、と男が叩いた。
「!?」
次いで、男の怒鳴り声が響く。
「道路に飛び出すなっつー簡単な基本マニュアルもインプットされてねーのか
 この馬鹿ガキが! あぁ!? ロボットでも車にひかれりゃ壊れるんだよ!」
男は見下ろしながら、怒った顔でロールを叱り飛ばした。
叩かれた頭を両手で押さえながら、ロールが痛みに涙目になる。
加えてヤクザ調で怒鳴られ、ロールは男の顔も声も怖いと思った。
「っ……!」
しかし、泣きそうな回路のなかで男の言葉は正しい、と小さく認識する。
確かに、リンゴを拾うためとはいえ道路に入り込んだ自分が悪い。
すると、泣きそうなロールの様子を見て、男は怒鳴るのを止め、小さく溜め息を吐いた。
「…?」
怒鳴り声が止んだため、恐る恐るロールが男を見上げる。
上を向くと、仕方ねぇな、と言いたげな男と目が合った。
「まぁ、怪我なくてよかったな、ガキ」
「……ええ」
「…いてえか? 痛覚システム精巧なんだな。殴っちまって悪かった、ほらよ」
言いながら、男は手に持っていた、ロールのものではないほうの買い物袋から
E缶を出し、ロールにぽん、と手渡した。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ