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□お礼
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今の現状、起きた現実。
それでも、その立ち位置はかわらない。



お礼



街には人が溢れている。
仕事に勤めるものや、物を買いに訪れるもの。
しかし、その人波に見られるのは必ずしも人だけではない。
そこには、人を模されたものや機能性を重視した多くのロボットも見られる。
人のために創られ、人のために働く彼らは、人と同じく街を歩く。
「今日は、ムニエルに、スープに、サラダに……」
ロボット工学の権威、ライト博士の少女型お手伝いロボット、ロールもまた
夕飯の献立をつぶやきながら街を歩いていた。
彼女は研究室から中々出てこない自らの父のための夕飯の材料の買い出しに街に来ていた。
大半の材料は一度、兄機体のロックマンと先ほどすでに買ってもう家に運んで
あるのだが、いくつか買い忘れがあった。
そのため、彼女は今度は一人で買い忘れを買いに来ていたのだ。
買い物袋を抱え、今度こそ買い忘れはないか、とロールは考える。
「っきゃ!?」
すると、考え事をしながら歩いていたためか、ロールはどんっと大きな作業用
ロボットにぶつかってしまった。
買い物袋から買ったものが転がり出る。
「ごめんなさ…っあ! リンゴが!」
買い物袋から、今日の夕飯のサラダに入れるためのリンゴが、転がりながら
ロールから離れていく。
ぶつかってしまったロボットに謝罪を口にし、ロールは慌てて追い掛け
リンゴを拾おうとした。
すぐにリンゴは転がる事を止め、拾われるのを待つ。
それを手に取り、ホッとしたようにロールがため息を吐いた。
すると、とたんにけたたましい警戒音──クラクション──が鳴り響く。
「!?」
ロールのアイセンサーに、こちらに向かってくる工業用の大型運輸装置が視認された。
資材を運ぶ目的のそれは、目的に見合った強固さと重量を誇っている。
リンゴが止まった位置は、そしてロールが迂闊にも走り込んだのは、道路の真ん中だった。
自身の体の何倍もあるそれに、駆動系統がショックでフリーズしたらしい、足が竦んで動かない。
ロールの思考回路が、瞬時に予測されるダメージ値を演算し、その弾き出された
演算結果と、自身の回避率の低さに愕然とした。
思わず目を閉じ、ぎゅ、と体を強ばらせる。


(ひかれる───!!)





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