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□呼び声
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望むものは、ただそれだけ。
応じるかどうかは、相手次第。



呼び声



「しつけえな、大丈夫だっつってんだろ、いい加減黙りやがれ」
「冷たいな、お兄ちゃんはただ…」
「やかましいんだよ、オニイサマ」
「っ…!! その呼び方はイヤだっ!」
「なら静かにしな」
「うぅ………」
ドクターワイリーのラボの中、長兄であるメタルマンの心配そうな声と、六男の
フラッシュマンの至極面倒臭そうな声がする。
フラッシュマンは今メンテナンス台の上に乗り、様々なコードに繋がれ、絡み
付かれて横たわっていた。右肩から先はなく、いつもついている彼の白い特殊武器はここにない。
その彼の傍らに立ち、メタルマンが様々なケーブルと弟の体のあちこちを繋げている。
フラッシュマンは今、フルメンテナンスの最中だった。
ワイリーはタイムストッパーのメンテナンスのため、奥の部屋で作業しており、ここにはいない。
フラッシュマン本体のメンテナンスは、長兄のメタルマンが行っている。
そのためラボにいるのは、メタルマンとフラッシュマンだけだった。
「辛くないか?」
「ああ…」
一方は心配そうな、一方はどこか煩そうな声がラボに静かに響く。
何本ものコードに繋がれ絡み付かれ、フラッシュマンは少しぐったりしていた。
もう正直受け答えも面倒臭い、とフラッシュマンは回路の中で小さく思ったが、
そんな弟に、かち、かちり、とメタルマンが新たにコードをフラッシュマンの首の後ろに繋ぐ。
「ん……ちょ、まだ繋ぐのかよ…」
「辛いか? 少し我慢してくれ、次は内部回路のサーチ用なんだ」
「いや、ま、だ大丈夫だけどよ。……ん…」
頸部から伝わる微弱なパルスの増加に、フラッシュマンが小さく呻く。
首だけでなく、腕や肩、胴や背面や脚など、体中にコードを接続され、調整や
検査の為のパルスが体中を駆け巡り、対応し切れなくなってきていた。
感覚回路や駆動系統も全身の装甲センサーも、もうパルスが流されていないところはない。
フラッシュマンはいい加減怠くてたまらない、と思ったが増加したパルスにまた
意識をとられる。妙に回路をチリチリと刺激してくるパルスだ、とフラッシュマンが思った。
「ぅ、く、……ん……」
「すまん、もう少しでサーチ結果が出るからな」
「大、丈夫だ……く…」
少し苦しそうに呻く弟に、メタルマンがおろおろと声をかけるが、フラッシュマンは
首をゆるゆると横に振って答えた。
この青い弟機体は、兄弟機の中でもデジタルリンクを得意とするうちの一人であるためか、
情報のやりとりやパルスの強弱にひどく敏感な回路を持っている。
任務でネットやシステムに侵入するための自らのプロテクトも、デジタルに秀でて
いるが故に兄弟機の中でも最も固い。
そのため、こうしてプロテクトを解くと普段強固に守られていた分、弟の回路は
敏感な反応をする。メタルマンは、気丈に呟きながらもやはり辛そうな弟の様子に
心配でたまらない、とハラハラとパネルを見つめた。




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