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□面倒
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面倒



珍しい光景が広がっていた。
いつもなら誰もいないその場所に、自分ではない先客がいる。
その先客を、フラッシュマンは意外そうに見つめた。
自身もその場所に足を踏み入れながら、自身に背を向けている兄弟機に声をかけた。
「……何やってんだ、エアー兄貴…?」
「……フラッシュか、いや、特に理由はない」
珍しい、と言わんばかりの弟機体の声に、エアーマンは視線を向けて答える。
フラッシュマンはその兄機体に近付きながら不思議そうな顔をした。
「…へぇ…」
「? 何だ?」
「や、特に理由がないのに、バルコニーにいるのが珍しいと思ってよ」
基本、ここ俺しか来ねえし、とフラッシュマンが付け加える。
青い二人の兄弟機は、基地にあるバルコニーにいた。
このバルコニーからは、基地の周りにあるウッドマン御用達の森が見える、景色がよい場所だった。
そのためフラッシュマンはたまにこの場所で、趣味である写真を撮ることがある。
今日もそうしようかとバルコニーに出てきたのだが、いつもなら誰もいないその場所に、
意外な先客がいたのだ。自分を意外そうに見つめる弟に、エアーマンは小さく口を開いた。
「……いや、正直に言うとヒートに仕置きの最中だ」
ぽつり、と聞こえた言葉に、フラッシュマンが目を丸くする。
「はあ?」
「流石にこの間の奴の行動には辟易した。暫らくは膝もかさん」
「この間のって……あぁ、あの酒に酔ったバカ騒ぎか……」
兄の言葉に、フラッシュマンがげんなりした顔をした。思い出させんなよ、と
こぼしながら兄の隣に立つ。
先日の父や兄弟を交えての宴会で、ヒートマンはその時初めて酒を口にし、酷く酔っ払った。
それだけなら問題はなかったのだが、あろうことかキス魔に変貌したのだ。
しかもそのヒートマンに便乗して、酔っ払って何も分からない状態のクラッシュマンも
同じ行動に出た。酒に酔ったとはいえ、二人とも悪意がないのが余計にたちが悪かった。
その被害にあったのが、エアーマンとクイックマンとフラッシュマンの三人だった。
「……んなことしたって、奴らやっぱり覚えちゃなかったろ?」
「ああ、案の定な……」
フラッシュマンの諦めたような声に、エアーマンが同意する。
翌日次兄が叱っても、ヒートマンにもクラッシュマンにも昨夜の記憶はメモリに
残っていなかった。エアーマンはやれやれとつぶやく。
「ようは奴が、自分が酒を飲まなければ良いと分かればそれでいい」
「成るほどね。あいつ、今まで『何か飲む気になんない』とか抜かしてたが、
 あのままでよかったのにな」
「クラッシュはただの便乗だから何とも言えんが…」
「だから、思い出させんなっつーの…」
バルコニーに、青い二人の兄弟機のため息が吐かれた。妙に他の兄弟機は個性的すぎる、と二人は思う。




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