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□意味
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「ちょっとは落ち着いた、クイック?」
「ああ…って、落ち着かなきゃいけなかったのはバブルの方だろう」
「まあまあ、それはいいとしてさ」
ニコニコとしながらバブルマンはクイックマンを眺める。
「ねえ、その状態が何なのか、本当に分かんないの、クイック?」
「? ああ、分からん」
「本当に知りたい?」
「じゃなきゃ誰かに相談なんかしないぞ」
しつこく聞いてくる兄を不思議そうに見て、E缶を飲みながらクイックマンが答えた。
そんな弟の様子を見て、バブルマンが朗らかに口を開く。

「じゃあ言うけどさ、それって、その笑った奴、とやらに恋したんじゃない?」

「…………………………」
E缶を傾けたまま、クイックマンがまた固まる。
口から摂取されずに行き場をなくしたE缶の中身が、ボタボタと床にこぼれた。
「…………」
「…………?」
「…………」
「……もしもーし、おーい、またか。ていうか、汚いなあ」
フリーズした弟に呆れてバブルマンが呼び掛ける。
おとなしかったり、せっかちだったり、固まったり。
バブルマンは段々面倒臭くなってきた。



「嘘だろ……」
いい加減水溜まりになりそうだったので、バブルマンはクイックマンの頭をぺし、と
叩いて起こした。盛大にこぼしたE缶の中身をちゃんと拭き取るよう布を手渡され、
クイックマンは掃除している。汚した床を拭きながら、呆然とつぶやいた。
先ほど三兄に言われた言葉が、クイックマンの思考回路を回り続けている。
「僕はそう思うけどなぁ、そいつに惚れて、んで、他の奴と一緒にいることに嫉妬してるって」
「…嫉妬……」
「うん、嫉妬」
「……………」
「何でそんなにショックなんだよ、クイック?」
普通そんな顔するかな、とバブルマンが呆れ声で言うが、クイックマンは相談前よりも
悩んでいる様子だった。
「いや、驚いただけだ……世話になったな、床も、悪かった…」
「いいよ。きれいになったしね、ありがと」
兄の命に従い、どこか茫然自失しながらもクイックマンが掃除を終えた。
立ち上がり、相談に乗ってくれたが、さらなる問題を突き付けてくれたバブルマンに暇をつげる。
バブルマンはゆったりと弟を見上げ、礼を告げた。そして、どこか楽しそうに口を開く。
「最後にもいっこ聞いていい、クイック?」
ぼんやり立っていた弟が、座っているバブルマンを見下ろした。
「?」
「相手はどこの誰?」
「時間とらせたな、バブル!! じゃあな!!!」
持ち前の最速の足を最大限に活用して、クイックマンがバブルマンの部屋から走り去った。
そんな弟に、バブルマンはくすくすと笑った。今頃真っ赤だろう、と弟の様子が容易に想像できる。
分かりやすいなぁ、とすぐ下の弟に親しみをもつ。
相手を聞きそびれてしまったが、まあいいや、と立ち上がって隣接しているプールに足を向けた。
クイックマンが最近少しだけ妙な様子だったのは、実はバブルマンは気付いていた。
まさかそれがこんなことだとは思わなかったが、弟の成長を嬉しく思い、その
相手が何となく想像できることに緑の機体は再度笑みをこぼす。
決定打は、ハロウィンの時か。ぼんやり思いながら、青い弟に口付ける朱色の
弟を見るクイックマンの目がかたかったことをバブルマンはメモリから引き出す。
任務や基地で過ごす自分達の行動範囲など、たかが知れているというものだ。

(さて、これからどうなるかな。それにしても、ここまで鈍いとはね。
 そんなこと自分で気付いて何とかすればいいのに)
僕は楽しいから構わないけど。そう思いながら、バブルマンはざぶん、とプールに潜った。
水が優しくバブルマンを包み込む。バブルマンはゆったりとたゆたい、プールの中を泳ぎ始めた。




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