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□表情
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ざぐん、と鈍い音をたてて、太いコードの束が切り裂かれる。
途端にぐらりバランスを崩して鉄の塊が傾き、火を吹く銃口があらぬ方向へと向いた。
木偶と化したそれが倒れ込む前に、その無駄に大きな脚部の隙間をすり抜けるように飛ぶ。
背後で倒壊の音が聞こえた。爆発の熱と風圧と粉塵が背を追いかけ、追い抜いていく。
鋭い三日月が空を舞う度に、辺りが切り開かれ道が出来る。
なぎ払われる雑踏。圧倒的な速度。機体にかかる風圧。加速し、色の混ざる世界。
そこにはしかし、気だるい思いばかりが募っていた。








「あ゙ぁん?」

白い部屋。ラボの中。
静かなそこに、場違いにも聞こえる品のない低い声が疑問を呈するように上がった。
「今なんつった?」
白い部屋に際立って目立つ深紅と、椅子にどかりと座っている青と黄色。
突拍子もない世迷い言を吐いた者を見るように、青と黄色の機体、フラッシュマンは怪訝に顔を歪めた。
そんな顔を向けられた深紅の色を持つ機体、メタルマンはしかし、平然としていて変なことを口走った自覚など更々ない様子をしている。
しかし実際、フラッシュマンにとっては聞こえた内容は世迷い言に等しかった。
「何寝言抜かしてやがる、てめえ?」
「寝言ではない」
「寝言じゃねーなら妄言だな。若しくはバグったかァ?」
吐き捨て、フラッシュマンは背もたれをぎしりと鳴らす。
「指令だ、と言ったはずだ」
メタルマンは静かに返した。
メタルマンから提示された指令。
とある工場とその研究施設の破壊、情報奪取。非常によくあるいつもの内容だった。問題はそこではない。
フラッシュマンが頭の後ろで手を組む。小馬鹿にした視線に、しかしメタルマンは反応しない。
「お断りだね、リスクがでかすぎる。ハイリスクローリターンどころか、俺にはリスクしかねぇ。
 そんなこと好き好む馬鹿じゃねえんでなァ。ドMの誰かにさせな」
「他に空きがないから貴様に言っている」
問題は、任務で組む相手機体にあった。提示された任務は、DWN,012、クイックマンとの同行任務だった。
フラッシュマンがせせら笑いながら続ける。
「っは、俺に死んでこいってことかァ、流石はてめえだ。恐れ入る鬼畜さだな、ええ? クソ食らえ」
「…………」
「いいか、このクズ鉄野郎。スカした面してるてめえにも分かるように言ってやっからよく聞きな。
 この俺と、よりによってよりによった、あいつとでの任務だァ? 何だって俺がわざわざ自分の能力制限
 されるような面倒な奴と組まなきゃいけねーんだ? 俺はあいつのお守りもゴメンだし、あいつが俺を
 護衛するなんていじらしい保証も根拠もねえ。あの真っ赤な猪突猛進野郎は指令無視常習犯だろうが。面倒だ。断る。ざけんな。以上だ」
テンポよく言い切り、フラッシュマンがばん、とテーブルに手を叩きつけた。





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