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□酒盛り
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「ほんと明るいなー」
「そーだな」
「お前の頭みてーだなー」
「殺すぞ」
「綺麗だなー」
「ああ」
「おいそこは『死んでもいいわ』だろ」
東洋の文学の小ネタを言えば、フラッシュマンが吹き出した。
辛うじて酒は零さなかったようだが、慌てて口元を手で覆う。
おかしそうに肩が震えた。
「なんでそんなネタてめーが知ってんだよ似合わねえな」
「ヒートが言ってた」
「あいつも妙なこと知ってんなー」
けらけらと、小さな声でくだらない事を笑いあう。
震える肩が少しづつ落ち着く頃、何となく視線を感じてふとクイックマンが隣を
見やれば、フラッシュマンが穏やかにこちらを見ていた。
からかうように、でこぴんされる。
「いてえ。何すんだ」
「カメラ持ってくりゃ良かったと思ってよ。お前がこんな時間起きてんの、珍しいからさ」
「そろそろ肖像権というものをだな」
「それがどんなもんかも良くわかってねーくせに何言ってんだ」
「くそっ、ほっとけよ」
「図星かよ」
思わずまたフラッシュマンが吹き出す。
今日は機嫌がいいのか、よく笑うなとクイックマンは思った。
またひとしきり笑い、あーあ、と二体でため息を吐く。
少し沈黙の間が生まれた。
「………まぁ、てめーが来て良かったぜ」
「何で?」
「一人で飲んではいたがよ、何となく、一人で飲みたいわけでもなかったんだよな。
 かといって、誰か起こすわけにもいかねーし」
「ふうん」
フラッシュマンの言葉に、深く突っ込むでもなく、クイックマンは少し考えた。
「俺も多分、そんな感じかな。何だろな。確かに月が明るくて起きたわけだけど
 一人で月見たいわけじゃなくて、けどお前が言ったみてーに誰かを起こしたい
 ほどでもない、みたいな。んー。うまく言えねーけど」
「いや、分かるぜ。そんな感じだ」
うまい言葉が見つからず、ほぼ復唱のようになってしまったが、フラッシュマンは
気にせずぽんと赤い肩を叩いた。クイックマンが持つグラスに、酒を継ぎ足す。
そのままビンを掲げ、乾杯の仕草を見せた。クイックマンも応じ、ビンとグラスをかちんとあてる。
「飲みますかね」
「ああ」
ただそう言葉を交わし、月を肴に二体とも酒をあおった。
穏やかに吹く風に、漂う酒気が紛れ込んだ。





「でも潰れても運ばねーからな。そこは自己責任だ」
「そんな殺生な」
「潰れる気かよふざけんな」





朝ほどとはいかずとも、夜にしては明るすぎる光が降り注ぐ。
夏の暑さが掻き消えて、ひんやり涼しい風が吹く。
光源にかその涼やかな風にか、何となく人恋しさを覚えた、明るい月夜。
二体だけの酒盛りは、静かにではなく、かといって喧しくもなく穏やかに行われた。





おわり




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