Main3

□酒盛り
1ページ/3ページ






目蓋の向こうがやたらと眩しい気がして、オフにしたはずのセンサーが起動する。
次いで感じるのは、からりと乾いた涼しげな空気。
粘つくような熱さは也を潜め、涼しい風がそっと吹いた。カーテンが揺れる。
視点が自然にそちらへ移り、そうしてやはり明るいことに気が付く。
窓を見やれば、朝ほどとはいかずとも、夜にしては明るすぎる光が差し込んでいた。






「うっわ、珍しいな。どうした?」
「俺の顔見るなり何だその反応」
何となくリビングに足を運ぶと、そこから行けるバルコニーへの扉が開いており、覗き込めば先客がいた。
二つ下の弟機体、フラッシュマンが、月明かりのした酒を飲んでいた。
からり、グラスを置く。
「てめえ任務ん時か任務行く時か任務から帰ってきた時しかこの時間起きてないだろ」
「任務関連しかねーじゃねーか。いや、まぁ、うん、…実際そだけどさ」
返しながら、フラッシュマンの隣に座ると少し酒臭かった。
フラッシュマンが置いたグラスに酒を注ぎ、傾ける。
「で、そんな早寝早起き様がこんな時間にどうした?」
「月が明るかったからな」
「あー。目ぇ覚めたか」
「そ。そんな感じ」
「二度寝しなかったのか?」
「なんとなく起きちまった」
「夜明けまでまだ数時間あんぞ」
「うん。多分ちょっとしたら寝に行くと思うわ」
ぽつぽつと言葉を交わす。
昼間騒ぐような音量ではなく、密やかとも言える大きさで、他愛無いことを口にしあう。
「ちょっとくれよ」
「ん。グラス他にねーし取りに行くのめんどいからこれでいいか」
持っていた飲みかけのグラスをかかげるフラッシュマンに、クイックマンは構わず手を伸ばした。
「別にいー。サンキュ。……で、お前は何してんの」
「あん? 見たとおり酒飲んでますよ。月見酒」
「いやそりゃ分かるって。そーじゃなくて、月見ながら酒飲むためだけにこんな時間まで起きてたのか?」
「いんや、単純にお仕事してたら、気付いたら夜になってて。あとてめえが
 言ったように月が明るかったからな。仕事上がりの一杯序でに月見だ」
「一杯って、空ビン後ろに転がってんぞ。何本目だよ」
「知らね」
片頬を持ち上げる弟機体の言葉にくつくつと肩を揺らし、ああ、と月を見上げた。
白銀、そう呼べる明るい輝きが視界いっぱいに広がる。
グラスを傾けた。口に辛さと熱さが満ちる。
「そういやお前さ、酔わねーのに酒飲んで楽しい?」
「酔うために飲んでんじゃねーからな。味も楽しむのが酒だ」
フラッシュマンの答えに、そんなもんか、と返し、クイックマンはまた酒を口にした。
じんわりと機体が暖まる。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ