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□お互い様
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あまり博士に手間取らせる案件にはならなそうだと思っていると、ふと視線を感じた。
フラッシュマンがついと見やると、じっとりと非難するようにクイックマンがこちらを見ていた。
「?」
フラッシュマンは少しぼんやりとそれを認識する。ゆっくり瞬きした。
それもそのはず、彼は連続機動が軽く数日経過していた。
任務から帰還したら飛び込んできたクイックマンの知らせ。休む間もなくスキャンデータのチェックと
思いの外難航しているスペア調整に駆り出されるはめになった。
普段破損が少ない故に、ボディ部分のスペアのコンディションが悪かったためだ。
それに対し、動かないという機体異常が認められてから原因究明に時間を費やし数時間。
この赤い機体は放置状態だった。
その間ずっと、負荷を軽減するために機能維持の代替コードが無数に絡まり、包まれるようにそこにいる。
それはまるで動けない機体を、動かないように押さえ付けているようにも見えた。
そうでもせねば、逃げてしまうとでも言うように。
言うなればその姿は前述の咎人か。或いは、囚われ人かに似ていた。

(そんだけ我儘っつーかまぁ、こいつ言うこと聞かねえんだよなぁ…)

回路でぼやく。その間も、クイックマンの視線は青い色に突き刺さんばかりに向けられていた。
「? なんだよ」
文字通り呼ぶように視線が訴えてくる。いい加減それが煩く、傍にとフラッシュマンは歩み寄った。
任務でいない側と、ラボにこもる側。普段と逆のことをしていた自分達。
ここで何もせずいるので、よほど暇で辟易したのだろうか。
その考えを後押しするように浮かべている憮然とした表情に、なんだか疲れも相まって
少しからかってやりたくなった。フラッシュマンは口端を片方にぃっと釣り上げる。
「なんか用か?」
動けないのが嫌なのか、会話不可なのがもどかしいのか。返事がないと知っている問い掛けに、やはり答えは返らない。
「動けねーのは自業自得だ。調整おわるまではそのままだっつったろ。諦めろ」
「……………」
悔しそうな雰囲気をかもしつつ、クイックマンは尚もフラッシュマンを見ている。
(……何見てんだ? ……あ)
排気がかかるほど近い距離になって、今更ふとフラッシュマンは思う。
釣り下げられているためか、目線の高さが普段とは逆転していた。
(あー、ちょいめずらしいかも)
ほぼかわらない、しかし微妙に自分が高いはずのものが、今は僅かばかり見上げている。
(俺のが普段地味に高いからなぁ。ちっとばかり新鮮だ)
そう思うと同時、赤の形よい唇が動いた。

「     」

薄く開く唇からは、しかし擦れた音すら聞こえない。ふ、と常より低い熱がこぼれ落ちた。
「……!」
その唇の動きに、フラッシュマンが一瞬固まる。しかし、すぐににやりと笑った。
普段なら突っぱねただろう。しかし今は二体しかいない室内、疲れも手伝って
判断が甘くなっているのかも知れないとフラッシュマンは思う。
なんだか悪戯に悪乗りしている気分だった。





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