Main3

□お互い様
1ページ/4ページ






言うなればそれは。





白いラボの床、様々な色をしたはびこる数々のコードは歩くのに危なっかしく、
張り巡らされた太めの配管は酷く邪魔くさい。
だが、それらの一つとして無駄なものはなくすべて重要なものだった。
植物の根のように、或いは人体の血管のようにあるそれは、一ヶ所へとつどっている。
それらがうねり絡まり群がる先、数多のコードが行き着く先には、輝く赤に艶やかな黒を持つ機体が眠るようにいた。

「気分はどーだよ、大馬鹿野郎」

ぞんざいに投げ掛けられる言葉に、キュイン、と駆動音をたててゆっくりと首を傾げた。
形良く弧を描く目蓋があがり、アイセンサーがピントを合わせる音が続く。
声のあるじを正常に視認したらしく、真っすぐに視線が合わさった。
だが、唇は動かない。
おそらくは「何だ」くらい言いたいだろうが、今は声を出すことは叶わない。
何故なら破損した喉のために発声は許されておらず、通信機能も死んだまま修理を待っている状態だからだ。
唯一のコミュニケーション能力であるジェスチャーを使い、声に反応を見せる姿。

クイックマンは、首半ばから下の機能が全廃になっていた。

かつかつとフラッシュマンが傍に近づく。
「何やったのか知らんが、派手にオーバーヒートしたせいで焼き切れて首から下の駆動系が死んでる。
 余波か知らんが、通信もアウト。素晴らしいじゃねぇの。スペアボディの調整がまだかかるから、もう少しそのままな」
つかてめえまじ何したんだよ?
回路でファイルを開きながらフラッシュマンがそう告げれば、クイックマンは不満そうにむ、と唇を歪めた。
その表情に、呆れたように続ける。
「まぁ何したかは知らんが、何でこーなったかははっきりしてる。てめえ、前回の
 フルメンテ以降、普段のメンテ逃げてたろ。確かにフルだと意識ごと落とすから
 楽だろーけど、普段のもやらなきゃこーなるんだ。いい加減懲りろ。さもなきゃ最悪
 任務中にぶっ倒れるはめになんぞ」
返事が出来ないのをいいことにつらつらと言いながら、赤い機体を眺めた。
両腕を戒められるように押さえられ、縦にぶらさがるようにいる姿。
それはまるで罪を犯した咎人が曝されているそれに似ている。

(ま、ある意味、似たようなもんかな。馬鹿やらかした挙げ句ってとこだし)

そんなことを思いながら、フラッシュマンはクイックマンの状態をファイルに追加していく。
音声反応良好。思考反応確認。ジェスチャーでの応対反応、及び反応速度に通常時とさほど違和感なし。
視覚異常なし。こちらを固体として姿を捕らえ視点を合わせること可能。
音声と通信コミュニケーション不可及び機体が動かない以上の影響はないものと見られる。
スペアとの機体交換で対応可能範囲と想定。
─────ああ、博士への報告は思ったより軽くすみそうだ。
羅列した項目を見返し、フラッシュマンは安堵に肩の力を抜く。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ