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ぼんやりと眺める、その存在。
話している時。任務の時。修理中の時。眠っている時。
意志疎通に最も用いる手段だからだろう、常に忙しなく動くそれ。
普段から生意気な言葉を吐くそこは、兄機体への敬意など欠けらも持ち合わせてはいない。
しかし、熱を交わすときには、自分より低めの割に酷く甘い声音になることを知っていた。
薄く、機体温が低めな中でさらにひんやりしている部位であり、存外に柔らかい。
触れると、とろりとこちらの熱を吸い取り熱くなる。思い返しては、ずくりと重いパルスが機体に走った。

(あぁ、キスしてぇ)

いつだって見かけるたび、触れたいと思う。重ねたいと思う。捕まえたいと思う。
きっとこう願うのは自分だけなのだろうと思うと悔しいが、思う。
奪ってしまいたいと、そう思う。
今、相手は任務中で、デジタルの世界に意識を飛ばし、本体はラボの椅子でゆったりと寝ていた。
スリープ音すら聞こえない。最低限の機体維持、きっと今は普段よりひんやりしているだろう。
そのどこにも行かない動かない機体すら、奪って捕まえてしまいたくなる。
かたりと音を立て立ち上がり、歩み寄っても相手は起きない。アイセンサーは
目蓋の奥に隠れ、その色を見せはしない。

(あぁ、こちらを向け。俺を見ろ。俺のことを考えろ)

顎に指をかけ、頬に手を添え、吐息のかかるほど顔を傍にやる。
行動に移せばよく怒りを買うが、さて今日はどうだろうか。
そういえば、あまり前もって言葉で伝えることは少ないなとぼんやり考える。
しかし、伝えたところで大して反応に差異はないだろうと、恋人のつれない態度に思い直した。
重ねようとした瞬間、ふるりと目蓋が震える。機体のモーター音があがり、プログラムが起動しはじめたのを感知した。
ゆるく目蓋が開く。何だ、起きたのか。そう思いながら、現状把握できていない相手に、意地悪く笑いかけてやる。

「帰ったかよ、のろま」

そうして、優しく優しくその唇に口付けを送る。
すると以外にも応えるように唇が擦り寄った。
ふ、と零れる排気はやはり冷たい。
こちらの温度が心地いいのか、抱き寄せるように触れる腕に、思考をそのまま放棄した。




おわり

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