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「ずるい」



突き刺す視線、剣呑な声音。
厳しさを滲ませる態度から、怒気をありありと感知した。






暖かなある日の午後。
任務明けの機体をゆるりと休ませるのにちょうどいい、湿度も高くなく気温も過ごしやすいくらいの時。
仁王立ちのクイックマンを前に、フラッシュマンは沈痛な面持ちで頭を抱えていた。
フラッシュマン自身の部屋の中。目頭を押さえ、あー…と唸りながら暗いオーラを発している。
「お前、お前さ、自分が何言ってるか、理解してるか…?」
何とかそう呟くが、しかしクイックマンはふんと鼻を鳴らすだけに終わった。
「るっさい。事実だろうが」
「…事実って…いうか…」
「浮気じゃないにしても、お前は他の奴らとべたべたしすぎだ。ずるい」
俺がやったら怒るくせに。
再度言葉にされて、フラッシュマンは両手で顔を覆った。顔を赤らめるでもなく
青ざめさせるでもなく、ただ途方にくれる。
彼らは仲間内には隠しているが、俗に言うと付き合っているという関係に類していた。
それがこんな言い合いになっている発端は、先程、フラッシュマンが自身に抱きつく
ヒートマンを好きにさせていたことに起因する。
フラッシュマンとしては、元々抱き上げて膝に乗せていた体勢だったため、抱きつかれたとて
ただのスキンシップ以外の何物でもなかったので受け入れていたのだが、クイックマンはそれを非難していた。
フラッシュマンが顔を上げて、どこか拗ねた様子のクイックマンを見る。
「あのな、いいか?」
「俺たちが言っちまえば異端だってのは、通用しないからな」
言おうとしたことを先んじて言われ、フラッシュマンが思わず唇を引き結ぶ。
頑として譲らない様子のクイックマンに、フラッシュマンは視線を伏せて溜め息を吐いた。
「………なぁ、あのさ、もしかしてなんだがひょっとしてもしかして、……妬いてんの」
「そうだよ」
「そうだよててめえな…」
何となく察してはいたが、まさかの的中に今度は片手で顔を覆う。
「煩い。俺は開き直る」
「直るな」
即座に突っ込み、がくりと椅子に機体を預けて、指の隙間からちらりと赤い色を眺めた。
「なぁおい、あのよ」
「あ?」
「この一週間、会わなかった日っていつだ?」
「そりゃ、お前が任務に出てた一昨日と昨日だろ」
言われた問いに、クイックマンがさらりと答える。よし、とフラッシュマンは頷いた。
「んじゃ会ってたその日の間、俺とお前が一緒にいた時間と、他の奴といた時間の差を求めよ」
「は? あー、えっと…。えー……。…………」
朝のトレーニング、昼のメンテや任務の話、夜の時間。一週間のメモリを遡りながら、
時が経つごとにクイックマンは黙り込んだ。どの時間帯にも青い色がいた。
「俺が何が言いたいか、分かったよな?」
「考えてみりゃ、今週は基本一緒にいたな……」
じとりと見やるフラッシュマンに、クイックマンはどこか意外そうに呟く。
深々とフラッシュマンが溜め息を吐いた。
「ほれみろ……結構、お前に時間割いてんだろーが…」
疲れたようにぼそりと言い、フラッシュマンがふいと視線をそらす。
それが嫌で、クイックマンは顎に指を掻けてこちらを向かせた。ごく自然に唇を重ねる。
「一先ずは俺が悪かった。けど、それはそれでこれはこれだ」
「何でだよ…。お前も本当、物好きな奴だよ」
あんなんで普通妬くもんかね。
こつりと赤い肩に額を預け、フラッシュマンがわからないと首を横にふった。
「目の前でいちゃつかれたら腹もたつわ」
「いちゃついてねーし。発想が病気すぎるだろ。……もういいから、黙れよ」
そう言うと、フラッシュマンはクイックマンの頭を引き寄せて再度唇を重ねた。
いちゃつくのはこうすることを言うのだと、伝わればいいと回路のどこかで思うが、
言葉にはならずにただ高まる熱に溶け消える。この感覚がフラッシュマンは好きだった。
物好きなのは本当はどちらか。答えに辿り着く前に、ゆるく交わされていた舌が離れる。
次いで、ちゅ、と唇が解け、くつりとフラッシュマンの喉が鳴った。
「けど何にせよ、人前だけは絶対に嫌だからな」
「ちっ」
はっきり告げられるそれに、クイックマンは悔しげに舌を打つと青い色を腕のなかに閉じ込めた。




おわり


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