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冷たく冷えきっている機体。もし触れでもしたらセンサーが痛覚と紛うほどに
その温度は冷たいだろうと思うほどサーモグラフィが濃い色を示す。
そんな体勢だといくつかの間接が固まるだろうに、オイルだって滑りを悪くするだろうに、机に突っ伏した状態で眠る姿。
排気もほとんど無い。廃熱する必要が無いから当然だろう。まるで糸の切れた人形のようだ。
足音を立てず歩み寄り、見やる。
恐ろしいものに近づくように、近づいてはならないものへの禁を破るように。
鋭い視線を放つアイセンサーは今は隠れ、唇は閉じているが代わりに皮肉さもなにも浮かべていない。
静かな、目蓋をおろした表情にコアが締め付けられるようにまた痛む。
逃げ出したいような、ずっと見ていたいような不可思議なパルスが機体を駆け巡った。
任務より帰還して、深夜に差し掛かる頃。
ラボに明かりがついているのを見て、思わずのぞいてしまった。その先にいた、見知った機体。
俯せの青。
何故こんなところにとは思わない。彼はよくここで何かをしている。
今日も何をしていたのか知らないが、恐らく無意味にいるはずが無いので何かをしていたのだろう。
だが、何故こんなところで、とは思う。
暖房を消しているため酷く寒い中、眠りに落ちた安らかな寝顔。
起こすべきなのだろう。
若しくは、部屋まで運ぶべきなのだろう。こんなところでは機体は休まらないのだから。
────なのに、起こしたくない。
彼が自分を厭うこともなく、今自分は傍にいる。鋭くも不可思議そうにも見られていない代わりに、
浮かべている見たことの無かった表情が見れている。
傍にいたい。もっと見ていたい。
しかしそれは長くは叶わないと知っている。彼が目覚めでもしたら、不審がる彼に説明などできない。
起こせない代わりに、彼へ注ぐ視線を外し、腕をのばす。
博士が寝るときに使う厚手毛布を手に取った。広げながら、恐る恐る青を覆う。
力加減がよく分からないため極力力を抜いているが、うまくいかず指先が少し震えた。
そっと、これでいいのか不安になりながらかけ終える。ふと、指先が青い色を掠めた。
温度すら感知できなかったが、それでも自分の排気が一瞬とまった。
慌てて背を向けてドアへと歩く。背後に感じる気配は目覚める兆しすら見せなかった。


そうして自室に着く頃に、今日が自分達が初めて目覚めだ日だと気付く。
それがどうだという思いはない。しかしそれでも。
僅かながら掠めた指先を見つめる。
罪悪感に震えながら、そっと口付けを落とした。




おわり

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