Main3

□3
18ページ/19ページ







例えば。例えば。
もしも、仮に、そうだとしたら。




いつもニヒルで、まともに取り合うことは稀で、小馬鹿にしたように皮肉げに笑い、鼻を鳴らす。
青い色の、普段の対応。
それを非難すれば開き直り、そんなに嫌なら他へ行けと吐き捨て、背を向ける。
青い色の、いつもの対応。
乱暴な言葉、辛辣な目付き、つれない仕草。突き放したような態度。
腕をのばし求め、胸に抱いて、望む声を上げるのはいつだって自分。
触れれば熱を上げ回路を鈍らせ、どんなに近くても足りないと焦がれ焦がれて
苦しいほどの自分のこの信号の嵐を、相手は知らない。知る由もない。
そんなのは悔しい。ひどく不公平だ。単純にそう思った。だからこそ。


「お前なんか、大嫌いだ」


普段からよく言う言葉。それを改めて口にする。
当たり前のように交わす言葉だからこそ、交わしてきた言葉だからこそ、普段とは違う感じに口にする。
むきになった顔じゃない。怒りに任せた声じゃない。戯れ合うような空気じゃない。
淡々と、表情なく、しかし真っすぐ見据えて言い放つ。
この言葉に、ああそうか、だから何だ?と興味なさげな言葉が帰ってきたら
どうしようという不安が無いわけではない。
まともに取り合ってすらもらえず、忙しいから後にしろ、とそのまま流されそうな
嫌な予感がしないでもない。
勿論、嫌いになどなったわけでは決してない。
こんなにも想っているのだと、ただ少しでも知ってもらいたいがための、小さな願い。
少しでも、欠けらでも相手の心に自分がいるのだという反応を見たいための、未熟な我儘。
これはほんの、意趣返し。

なのに。

僅かに見開かれるアイセンサーと、狼狽えるように微かに寄る眉根、震えて薄く開く唇。
しかし何も言葉は吐かれず、パーツを持つ指にぎゅっと力がこもる。
そして少し思案し、一瞬少しだけ泣きそうな顔がこちらに向くが、言葉が見つからないらしくやはり声は出てこない。
ふいに一度瞬き、そのまま悲しそうに視線を伏せ、力なくパーツを傍の台に置く。
滲む、諦めるような空気。沸き上がる、傷つけた罪悪感、相反する歓喜。

例えば。例えば、いつものように聞き流すだとか。
もしも、邪魔するなと機嫌を損ねて追い出されたらだとか。
仮に、あっそ、と受け入れられるだとか。
そうだとしたらとばかり、思っていた。
だのにそんな反応がくるなんて、予想だにしなかった。
だから。


次の瞬間、そんなの嘘だと伝えるために、床を蹴って思い切り青い色を抱き締めた。




おわり


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ