Main3

□3
17ページ/19ページ







日の差し込む窓。白い壁。
室内灯がなくとも明るい部屋。機体を修理したり調整する場所。その空間で。

「んっ、う………」
「ほぉら、歯を立てるなよ…? ゆっくりだ、そう、柔らかく。力抜いて……」
「ふ、ぅ…んぅ…っ」
「あぁ、その調子だ。そう。もう少し強く、…いいぞ…」
二体しかいないラボの中。
乱れる排気に漏れる声と、穏やかだが支配権を持ち優しく導く声が折り重なる。
白い指がまろやかな頬をゆるりと撫で、落ち着かせるように視線は決して急かさない。
しかしもう片方は苦しげに喉を引きつらせ、ぴちゃ、と濡れた音がときたま交ざった。


「マジで何してんの?」


入ってきたドアから凍り付いて微動だにできなかったクイックマンが漸く言えば、青い背が「んー?」とのんびりと振り返った。
前の台にはヒートマンが横たわっている。口に何か管を入れられ飲み込んでいるようだった。
「あ? ヒートの奴が喉の廃熱管に何か引っ掛かったっつーから、カメラ飲まして見てんの」
「うー」
「ああ、ワリワリ。続きすっから。んー……一応この辺りは異常無いんだがなぁ。もうちょい奥行くぞ」
「んー」
「はいはい、保潤液な。……よし、拭いたぞ。垂れるのはしゃーねえんだから、んなに気にすんなよ」
「むー」
「そもそもさっさと意識落として全部見せりゃ早いだろってのに、お前もそのほーが楽だろうに何でフルメンテ嫌がるかね」
「ぬー」
「すぐ終わると思ったっつったって、んー、まて、もーちょい奥、かな…? ちょい飲み込め」
「ふー」
「あ、そうそう。んで、クイック、何か用か?」
ヒートマンの喉に管を入れる作業をしつつ、フラッシュマンが手元に視線を注いだまま聞けば
クイックマンは少し挙動不審げに視線を泳がせる。
声をかけたときとは一転、なぜかおろおろと狼狽えた。
閑かでほのぼのとした二体から視線を外し心なしか罪悪感を感じつつ、何とか喉から言葉を絞りだした。


「い、いや別に……?」


聞こえた会話に驚いただとか、紛らわしい会話すんなとか、何かもうごめんなさいだとか、
言ったら負けな言葉が回路に飛び交う。
しかし「そうか」とそれをスルーし、フラッシュマンとヒートマンはクイックマンの様子に気付くことはなかった。
クイックマンはそのまま何の用があったのかも忘れて、何で会話が成り立つのか不思議な光景をそのまま延々と見続けていた。




終わり



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ