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ふとした瞬間に、ただ。





そっと頬に口付けを落とす。
開かない目蓋。静かな唇。動かない、機体。
まだ日が落ちて早い時間から、珍しくも眠りに落ちている姿。
動くのをやめるのは至極苦痛のはずが、何故だかそれを忘れてじっと眺める。
寝台の中、熱を沿わせるように並んで横たわっている、ただそれだけの静かな室内。
窓からは夜の闇が覗き、廃熱の小さな小さな吐息だけが空気を震わせていた。
ゆるく開いた唇を指でなぞれば、度重なる悪戯のせいか擽ったそうに顔を振る。
「ん……」
起こしたかったわけではない。
しかしもぞりと動くのになぜか笑みが浮かび、薄く目蓋をあけた青に小さく声をかける。
「起きたか」
「…。……?」
こちらを認識して、しかし場所に違和感があるらしく目蓋を擦って上体を起こした。
きょろきょろと視線が動くのに、ああ、と思い至り先に告げる。
「ここ俺の部屋。んでこれは俺のベッド。ラボで寝こけてたの見つけてな。お前の部屋入れねーからよ」
「あー…そっか。運んでくれたのか。サンキュ。仮眠がマジ寝になっちまった…」
言いながら、ぽて、と寝台に機体を倒した。まだシステムが起動しきらないのか
それともセーフティが機体を休ませようと働いているのか、目蓋が重たそうにしている。
再度枕に預けられた頭。ゆるく撫でた。
「わり、すぐ行くから、…も少し…」
「いや、寝てていいぞ」
「ん……」
気持ちよさそうに目蓋を閉じる。それをみて、もぞもぞと距離をつめた。
閉じたはずの目蓋があがり、じとりとこちらを見る。
「……クイックさんよぉ、近くございません?」
「隣に寝てるからだろ。それにこれ俺のベッドだし」
「それを差し引いても近いだろ…」
言いながら、こちらに背を向ける形で寝返りを打とうとした。
離れる機体が厭わしくて、腕をのばして頭を抱き込む。有無を言わせないながら、あくまでも、優しく。
触れる熱がいとおしくて、青が戸惑っている隙に首を支えて唇を重ねる。
「………!」
ぴくりと小さく震える肩。抵抗のつもりだったのか上がった手は、しかし控えめに腕に触れた。
衣擦れと排気、そして密やかに水音がたつ。
うすく目蓋を開けると、かああと赤らむ目元が見えた。
何だか嬉しくなり唇をなめ、舌を差し入れると、切なげな声が漏れる。
沿わせるようにゆるゆると舌を絡ませ、比較的早い段で解放すると、は、と熱を吐いた。
「っ…、………?」
少し不思議そうな視線と鉢合う。恐らく、いつもより短い時間だったからだろうか。
しかし、別段、疲れているのを無視して無理矢理事に及ぶ気はない。
ふわと笑いかける。
すると、赤らむ範囲が広がった。
「も、なん…なんだよ……」
「別に」
恥ずかしそうに唇を拭う青にさらりと返し、枕に頭を預けた。
「一緒に寝たいじゃん。たまには」
「……何で」
「まぁ、いいじゃねーの。それにお前もお疲れだろ。もう今日は寝ろって」
「んだよ、意味わかんねーな…。つか、仕事も終わってねーし、も少ししたら行くって…」
「ダメだ逃がさん」
「なんでだよあーもう……好きにしろよ」
諦めたのか、少しふてたように言い、ふ、とまた機体から力が抜けていく。
何だかんだと言って、やはり、よほど眠いようだ。
いつもはひんやりした機体が、珍しくほっこりと暖かい。
それに腕を回し、少し抱き寄せる。すると、重たそうな腕がこちらの背中に回された。
嫌がるのかと思ったため、少し面食らう。次いで、ぽつりと呟きが空気を震わせた。
「……あったかいな、てめーは………」
言い終えてから、限界がきたのかまたシステムが休止する音が小さく聞こえる。
すぐに機体維持の為の最低限まで駆動が落ちるのを感知しながら、頭をゆるくすり寄せた。
「お前が傍にいるからな…」
もう聞こえていないセンサーにそっと囁きかける。
そうして、もはや意識を手放し眠りに落ちた相手に倣い、自分も目蓋を閉じた。



ふとした瞬間に、ただ触れたくなる。
傍にいたくなる。
熱を、感じたくなる。


腕に捕らえ暖めて暖められて、一時でも癒しをとそう願う。
窓の外では、冷たい風がびゅうと音を立てた。




おわり

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