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月明かりに浮かび上がる、滑らかな青。
宵闇に白く注ぐ光は、昼ほどの強さがないためか妙な怪しさを醸した。
窓の外の三日月。
日が落ちるのが早まり、寒いといえる気温になってきた今の季節に冴え冴えと浮かぶ。
そんな中、触れる熱はまわりの空気よりは暖かいが、性能差か自分よりは冷たい。
いつもと変わらぬにやけた顔、とろりと溶けた視線。つい、と装甲を蠱誘的に這う指。
ほうと漏れる呼気には、仄かに酒の香りが交じっていた。
「菓子をくれたら、悪戯してやる」
普通逆だろう、そう言えるものはその場におらず、ただ冷たい視線だけを青に投げる。
しかし、馴々しくしなだれかかる腕を払う気にはなんとなくならなかった。
「くれよ。とびきり甘いのを」
座る自分に馬乗りになり、擦れた声で囁く青。甘えるように機体を寄せ、聴覚器に口付けてきた。
好きにさせながらも、しかし反応はしない。
人間が興じる行事に託けた下らない戯言に付き合うつもりはない。そもそも、菓子など持っていない。
聴覚器から頬、首筋へと辿る青はそのままにさせながら、菓子が得られぬなら勝手に帰るだろうかと思う。
しかしふと、視界に飲みかけだったグラスが映った。
創造主の催した宴の名残。
甘すぎて好みではない類のカクテルだったが、何とはなしにそれを手に取る。
それを軽く口に含むと、こちらの動きには無頓着に好きにしていた青の顎を取り、唇を重ねた。
存外に高いアルコールを、相手へと流し込む。
相手があっさりと受け入れて飲み下すのを感知し、次いで舌を滑り込ませようとしたところで不意に逃げられた。
まだ持っていたグラスが奪われる。
変わらず無表情を向ければ、青はにやりと楽しそうに薄く笑った。
グラスが少しだけ傾き、つうと自分の胸元へとそれが滴れる。
ぱたり、ぱたりと冷ややかなそれにセンサーが反応した。玉として留まるもの、重力に従い流れるものとに別れる。
赤と金を汚しながら、徐々にそれは腰へと滴れる場所をかえ、馬乗りになっている青の腰へと進んでいった。
そして腹から胸へと達したところで酒が無くなり、ぽた、と最後に青の舌に名残が落ちる。
空になったグラスがぞんざいに投げられた。
ぱりん、と部屋の片隅で音が鳴る。
それを気にも留めずに、汚した場所へと猫のように舌を這わせてきた。
ぴちゃりぴちゃりと音が立つ。装甲から滴れ落ちた跡は手の平が塗り広げるように滑った。
時折吸い付く。
菓子ではなかったが、気に入ったのだろうか。甘味なら何でもよかったのだろうか。
機体を這う、悪戯だと言う熱を感じながら、そんなどうでもいいことを考えた。
むせ返るような甘ったるい香りが辺りを漂う。
窓の外の三日月。
雲がかかり姿が隠れると、薄明かりすらも消えて闇が濃くなる。
戯れるように悪戯を働く腕を取り、すっかり甘くなった唇に噛み付くように再度口付けた。
濃くなったアルコールを感じる。あらがわないのを知りながら、乱雑に舌を絡ませた。
うねる腰を抱えるように腕を回す。
雲が三日月から離れる前に、場所を変えるように青を引き倒した。





おわり

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