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滴り落ちる白濁。むせ返る芳香。ぴちゃりと鳴る水音。
眉根の寄るアイセンサーはその姿を目蓋の裏に隠し、上気した頬はいつもより熱い。
唇からは苦しげな吐息が、微かに声を交えて漏れる。熱気の充満した部屋に、それはどこか蠱惑的に響いた。













「あぢぃ……」
地を這うような低い声でぼそりと呟く。
次いで、じゅるる、と汁気を啜る下品な音が立った。ごくり、飲み下す。
大きく空気を吐き出すと、甘ったるい匂いが立ちこめた。
棒状のものから今にも滴り落ちそうな白いそれを啜り、丁寧に舌を絡ませて舐めとる。
しかし、次から次へと溢れだすそれは、終に雫を床へと垂らした。
ぽた、と音が立つ。
舌打ちがその後を追った。
「っあ"ーもー、涼む前に全部溶けちまうじゃねーか、クッソ…」
フラッシュマンが、日中の暑さを少しでも癒そうと氷菓を食べて、基、舐めていた。
しかし舐めても舐めても追い付かない溶けだす速度に、イライラと唸る。
今時レトロなことに、フラッシュマンが持っているのはミルクアイスと呼ばれる類のもので、
甘ったるい香りを放っていた。整えられた木の棒に纏うように円柱状に固められたそれは、
持ち手部分を伝い青の手を既に白く幾筋にも汚している。
フラッシュマンの基地は北にあるため、任務が無いときは最近ずっとそこに逃げて
引き籠もっていたのだが、雑務の呼び出しを食らってワイリー基地へと強制召喚されたのだ。
ここだって冷房は働いてはいるが、設定温度は金銭的な理由でさほど低くない。
そのため管轄基地ほどの涼は得られず、それどころかこの青にとっては寧ろ暑く、故にぐったりしていた。
そんな熱がる様が不様だと、休憩時間になると氷菓を投げて寄越され、今にいたる。
「しッかし、これ逆に貰っても嫌がらせじゃねーかァ? クソッたれが…」
ぐずりと溶ける白い棒をねめつけ、フラッシュマンはごちた。
すぐ下の後発機体は氷菓の類を酷く嫌う。
機体の熱が性能故に飛び抜けて高いため、自分より余程早く溶けて液状に、場合によれば気体になるからだ。
そんな彼の気持ちが少し分かるような気になった。自分は気化にまではできないが、
間接に変にこびり付いたら厄介ではあった。それに、これを投げ寄越した緑の機体が
これやるから黙れ、いくら暑くても俺のプールに入ったら殺すと吐き捨てたのがまた忌々しい。
自分は心地よく水の中で過ごしながら偉そうに、とむつむつとそんなことを
考えていると、ふと、シュン、とドアがスライドする。
「あ"?」
フラッシュマンが見やると、クイックマンがラボに入室してきた。鉄面皮と揶揄される彼は
青を一瞥し、しかしすぐに器材を求めて棚へと足を向ける。フラッシュマンも視線が
ドアに向いたのは一瞬で、すぐにそれはブラウザへと戻された。挨拶どころか声も交わさないのはいつものことだ。





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