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微睡みに落ちる直前。まるで降下寸前のような一瞬の浮遊。
すう、と機体が芯から凍るような、永遠に消え去る錯覚のような、凝縮された瞬間。
先に待つのは安寧の闇と知りながら、それでも尚欠けらのような不安が意識を掠めた。




「相変わらず、最高に最低のメンテ結果だな」
呆れ果てたように、メタルマンがデータを指で弾いた。ファイルを閉じた先には、青い機体が
不遜な態度でにやつきながらメンテナンス台に横たわっている。
いくら小言を言ってもへらへらと聞き流す腹立たしい同胞に、いつもの如く苛立ちを
募らせるメタルマンの傍、白衣を纏ったワイリーが別のファイルを見ながら近づいてきた。
「しっかし、タイムストッパーだけは丁寧にみとるのう。こっちは今回もオールグリーンじゃ」
「そうですか…」
「なのになーんで本体はほったらかしにするんかのう?」
わからんやっちゃなぁ。
ワイリーは苦笑いして、傑作と讃えた青い息子機体を眺めた。
基地をぶらついていたのを取っ捕まえて、さぼり続けていたメンテナンスを強制施行した結果、
自分で丁寧に見ているらしい右腕以外に、大きくはないが放っておくのも良くない不備が
ちらほらと全身に万遍無く出てきたのだ。
メンテナンスされた機体、フラッシュマンはべえと舌を出した。
怒ろうとするメタルマンを、ワイリーが右手を上げて制する。
「そーりゃあ、タイムストッパーは自分でキレイに出来るしィ?」
「じゃから、自分でできん定期メンテナンスをさぼるなというんじゃ、バカたれ」
「だぁって、他の奴にカラダ触られんの嫌いなんスよ。敏感なもんで」
「何を抜かすか」
額の装飾にデコピンし、ワイリーは笑いながら器具を手に取った。減らず口を叩くこの青は、
創造主である自分以外に修理されるのを酷く嫌う。
しかし、そんな素振りをお首にも出さずに、ただ面倒だからと言って他の機体が担う場合の定期メンテナンスを逃げるのだ。
「全く。ほら、プログラムを流す。またいじくったらしいセキュリティをとけ」
「あら、いじくったのばれちゃった?」
「当たり前じゃろ」
ワイリーは、随分とトリッキーな性格となった機体であれども、個性として認めていた。
命令違反をすることもなく、危なっかしいが全損しそうなことをするというわけでもない。
理解及ばぬ点がありこそすれ、ワイリーはフラッシュマンにメタルマンがするような説教はしない。
命令に従う点では、最速を誇る息子よりかはこの青は扱いやすかった。
狡猾で強かで、そこしれぬ不気味さはいっそ、見守りたい好奇心すら呼び起こす。
父の思考をよそに、フラッシュマンは流れてくるプログラムに意識を委ねながら白衣の白を眺めていた。
微睡みに落ちる直前。まるで降下寸前のような一瞬の浮遊。
すう、と機体が芯から凍るような、永遠に消え去る錯覚のような、凝縮された瞬間。
先に待つのは安寧の闇と知りながら、それでも尚欠けらのような不安が意識を掠めた。
それはまるで、全ての時が止まったままになるような幻覚を覚える。
そしてそれは、白く染まった時の世界に似ていた。


全部全部投げ出して、行き着いた先にまみえるのは果たして。





おわり


14年1月13日 更新

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