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風に吹かれ、広がり揺れるそれ。日差しを受け、艶やかに光を返す。
色の濃いそれは、この星でこの地域でこの季節、随分と目立つものと似ていた。





「クッソあちぃなオイ……」
何もやる気起きねーよ。
「フフフ普段からお前は、ナナナ何もしねーだろーが」
ぐったりと床に倒れて呟くサターンに、ウラヌスが呆れて返した。
潜伏をすることを決めた星の、高温湿潤地帯。夏の季節。
湿度なんてものとは無縁の宇宙にいることが多い。そんな彼らからしたら随分と珍しい気候。
遥か太古の昔に繁栄した文明の結晶であるルーラーズからすれば、別段対応できないわけではない。
しかし何かと理由をつけてだらけるのがその中の一体、サターンであった。
くつくつと肩を揺らす。
「んだよ。そりゃ心外だぜ、ウラヌスちゃんよォ」
「ウウウうるせぇ、イイイいい加減起きろ」
「べっつにいーじゃねーの、オフだぜオフ?」
「ンンンんなこと言ってジュピターもいなくなりやがった」
「あぁん? どーせいつものお散歩だろ。ほっとけって。つーか、こんだけ温度差や
 水気のある星だ、そりゃあ風の種類も多くなるってもんだ。珍しいんだろうよ」
サターンの寝転がったままの言葉に、ウラヌスはチッと吐き捨てて頭をかいた。
さわり、風が通る。
暑くて怠くて何のやる気も起きない中、それは悪戯に生ぬるく空気を掻き混ぜるだけで
機体にまとわるベタつきを解消しはしない。
もう少しすればからり乾いて涼しさを帯びるというが、さて、なら今すぐなれよとサターンは思う。
そんなサターン相手に、愚痴るならご自慢の武器で宇宙空間にでも行ってろと
ウラヌスは思うが、口にはしなかった。
ざわざわと、木々が揺れる。
「………」
何となくサターンは視線をやった。
その先には青々としたこの星特有の植物がうっそり生えている。
すうと目を細めた。
この星特有の、数多ある星からすれば珍しいと呼べる存在。なのに、何故か見慣れている気になる。
あの色。深く、濃く、それでいて光沢ある、あの色。
「…………」
珍しいこともあるものだとサターンは考える。
そこに。
「ビーナスはいるか」
一つ、燐とした声が落ちた。
「ビビビビーナスなら今風呂場に」
「そうか、丁度いい」
ウラヌスの答えにそう告げて、瞬間移動してきた隊長機体、アースはつかつかと歩いていった。
「………びびったぁあ…。いきなり帰ってくんなよなぁ…」
「ダダダだから起きとけっつったろーが」
隊長機のいきなりの帰還にぼやくと、ウラヌスが呆れたように返す。
オフも終わりかぁ、つーか多分次ぎ命令されんのは掃除だな。
何となくそんなことを考えつつ、視界を過った豊かな緑髪が回路を過る。
緑茂るこの星。何の因果か破壊を司る自分達の隊長は、その植物の緑に近い髪色を持っていた。
突如空間に表れる瞬間。歩く動作。そして、風が吹いた時。
広がり揺れ、絡まることなくさらりさらりとなびくそれ。
日差しを受け、艶やかに光を返す。
色の濃いそれは、この星でこの地域でこの季節、随分と目立つものと似ていた。

あんな穏やかな存在と似ているところがあるだなんて、珍しいこともあるものだとサターンは考えた。



おわり

13年8月29日 更新



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