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かつりかつり。
廊下に足音が響く。
早くもなく遅くもなく、まさにぶらぶら歩いているといった速度。
スライドするドアの向こうで、探していた背中を見つけた。
「………で、何してんですかね」
「別に落書きもつねったりも何もしてないよ」
「んなこたー聞いちゃいねーが、当たり前だろ」
つうか降りろよ。
呆れたようなフラッシュマンの声に、ヒートマンはくすくすと笑った。
「やだー」
「やだじゃない」
「ソファで寝てるフラッシュが悪いんですぅうー共用の場所に陣取らないで下さいぃー」
もっともらしく言いながら、ぱたぱたと足を揺らした。ヒートマンは今、俯せで寝ていた
フラッシュマンの背に沿うように、同じく俯せで上に乗っかっていた。
ぐぅう、とソファに顔を押しつけたせいで籠もった声になりつつ、フラッシュマンが唸る。
「最近、フラッシュ、リビングで寝すぎじゃない? 部屋に行けばいいのに」
尋ねると、首を横に向け、視線をちらりと後ろにやりヒートマンを見ながらフラッシュマンは恨めしげに呟いた。
「俺が自分の部屋にいったらドアが開かないだの愚痴るだろーがお前」
「あー。そりゃ、僕がアクセスしてもドア開けられるようにロック変更してくれたらいいだけでしょ」
「いやだ、あそこは俺の城だ」
「エロ本隠してるからってそんな、プライバシーを主張しなくても」
「あほか」
くたりと力を抜き、フラッシュマンがソファに機体を預ける。その背に頬をあてながら、「ねえ」とヒートマンが声をかけた。
「んあ?」
「……何でもないや」
「んだよそれ」
またも呆れたように、しかし吹き出しながらフラッシュマンは肩を揺らす。
その振動を感じながら、たとえ寝る邪魔されることになろうとも、こうして手の届く場所に
機体を置いてくれる兄の優しさをヒートマンは嬉しく思った。
しかし、口にすれば否定されただろうと思い、回路に思うだけに止めることにする。
すると、フラッシュマンはヒートマンの下でよいせと機体を捩った。俯せの機体を仰向けにする。
「何だか知らねーが、お前も暇だよな」
ふんわりと。
柔らかに柔らかに優しくほほ笑みながらフラッシュマンはヒートマンの頭を撫でた。
それを心地よさげに受けながら、ヒートマンは表情だけは膨れてみせる。
「暇じゃありませんー」
「なら降りろ」
「暇じゃないけど降りませんー」
「何なんだよ」
意味があるような無いような他愛ない会話に、二人しておかしそうに笑いはじめた。
のばされる青い腕に逆らわず、互いの額をあてる。
ヒートマンはこの兄の浮かべる甘やかすようなそれが、酷く好きだった。
「で、暇じゃないが降りねぇなら、これからどうする」
「んー、そうだね、寝ようかなー。時間あいてるし」
「それを暇っていうんだよ」
けらけらと笑いながら、よいしょとまた機体をずらし、狭いソファに横向きになり
ヒートマンが転がれるだけのスペースをあける。
自然としてくれる腕枕に甘えるように頭を寄せると、抱き寄せられるようにもう片方の腕が回された。
眠そうな、しかしやはり優しい笑みを浮かべてフラッシュマンが唇を動かす。
「暇な奴」
「違うもーん」
とうとう力尽きたように閉じるアイセンサーを眺めながら、ヒートマンが頬を膨らませた。
しかしそれ以上言葉を重ねることはせず、兄の心地いい抱擁に甘えながら自らも目蓋をおろした。
空いた時間に一緒にいたいというのは、暇だからというのと同じではないと思いながら。
おわり
13年4月19日 更新