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きん、と凍り付くような独特の、しかしどこか美しい音。
それを奏でる唯一の存在は、しかし今は掻き消えたように姿が無い。
よっぽどだと溜め息を吐いた。





「みーつけたっ」
「見つかったか」
「何してんの」
「さぼり」
「見たら分かるから」
「なら聞くんじゃねーよ」
かたん、とドアをくぐってバルコニーの柵に手をかけ、もう涼しいを通り越して
冷たさを帯びた風をヒートマンが感じる。
その横、椅子にゆったりと機体をもたせかけて酒を傾けるフラッシュマンがいた。
その機体には不気味に蜘蛛の糸や血濡れた包帯やど薄気味悪いデコレーションが施されており、
黒く長いマントを背に敷いている。そしてヒートマンも狼を模した耳や尻尾、
手袋や牙などを付け、詰まる所彼らはハロウィンの仮装をしていた。
満月に近い月の下、明るいそれを浴びながらのんびりとフラッシュマンがグラスの中の氷を揺らす。
「クイックが走ってったからって、タイムストッパー使うかな、普通? しかも
 どこ行ったかと思えばこんなとこいるし」
「あーありゃ走ってったっつーか何つーか…。まぁ、俺は、要は風に当たりたくてな。酔い醒まし酔い醒まし」
「へーふーんそーなのー。手に持ってるそれってよく燃えそうだよねぇ」
「火気厳禁でお願いします」
少し拗ねたように言うヒートマンに、フラッシュマンがのらくらと躱した。
肘をついて腕に頬をのせ、ヒートマンは宴会の途中で静かに抜けた青い兄を見やる。
酷く盛り上がって煩い程の中、酔いに任せて四兄が五兄を担いで夜の闇にダッシュして
いなくなるという謎のシチュエーションが発生したかと思うと、特殊武器の弱点持ちが
いなくなったのをいいことに、この青は姿を眩ましたのだ。
すぐに見つかったはいいものの、面白くないと思いつつヒートマンは先ほど思ったことを口にする。
「フラッシュってあれだよね、すぐ姿隠すから普段からお化けっぽいよね。
 やーいお化け。幽霊。モンスター」
「凄く語弊がありませんかねそれは」
「気のせいだよ」
つーんとどこか不機嫌な連番の弟機体に、フラッシュマンはやれやれと片頬を
優しく持ち上げてから、残りのブランデーを一気に煽った。
「……あーもー、分かったよ、戻ればいいんだろ?」
「やっと分かったか。これだからハゲなんだよ」
「今度のメンテ覚悟しとけよ」
「職権乱用で博士に訴えるから」
「喧しいわ」
言いながらヒートマンの脇に手を入れ、フラッシュマンがよっこいしょと抱えあげる。
「うわっおっさんくさい」
「そうかそうかそんなに柵から放り投げられたいか」
「やったら燃やすから。きっと酒飲みまくってるからフラッシュ今凄くよく燃えると思うよ」
足をぶらぶらと揺らしながらヒートマンが笑うと、フラッシュマンは洒落にならんわとぼやいた。
今宵は月が美しいのと、少し風に当たりたくなって抜けただけなのだが、存外に
目ざとく寂しがりの七弟をフラッシュマンはぽんぽんと背を叩いてやる。
ぽつりとヒートマンが呟いた。
「んで、クイックとクラッシュ、どうすんの?」
「あー、知らん。メタル頼み。俺は今日は久々のオフなんで全力で関わりませんよ」
兄の返答にくすくすとヒートマンが肩を揺らし、白い右腕をちろりと見やる。




きん、と凍り付くような独特の、しかしどこか美しい音。それを奏でるその右腕。
奏でる唯一の存在は掻き消えたように姿を消すが、しかし今は自分を包んでいる。
本当に、彼の纏う仮装よりもよっぽどお化けのようだと思うが触れる感触は確かなもので、
ヒートマンは少し安心するように青い胸に頭をもたれさせた。
歩いて行く先、広間からはまだ衰える気配のない喧騒が聞こえていた。




おわり



12年10月31日 更新

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