Main2

□2
7ページ/31ページ






ころりころりと、いとも容易くせわしく他へと移ろう。
それをここにと望んでも、叶えられることも、そもそも聞き入れられることもない。
ならば。
例えば手の中にあれば、それはどういった意味を為すのだろう。





呼び止め、振り返る隙をついて無防備な目元を覆い隠す。
突然のそれに、相手は当然困惑し、あらがった。
払い除けようとする側と、押さえ込もうとする側の攻防で知らず組み合わさる手、絡む指。
機体は重さをかけて壁に押しつけ、結果身を捩ることもままならなくさせる。
ただ互いの熱や存在を、装甲のセンサーが鮮明に感知することだけが共通の認識。
しかしそんな一瞬の混乱を乗り越えれば、次いでくるのは罵倒の嵐と分かっていた。
だからこそ、先んじて口付けでふさいだ。
人のように動くことを想定され作られた唇の表面は、やはり柔軟性が必要なのか
柔らかく、しっとりとした感触を伝え合う。
強引な口付けから逃れようと捩るせいで、擦り合わせるような形になった。
しかし食い縛る歯は隙間を見せず、物足りなげに舌先でちろりとなぞる。
一旦離れると、とたんに荒く熱い息が漏れた。
次いで、目元を隠す手を剥がそうと、黄色い手がかかる。
憎々しげに歯を食い縛る口元を見やってから、目元にかけた右手に力を入れて
思い切り首を傾けさせ、曝け出される首筋に噛み付いた。
苦痛の声が上がる。
弱まる抵抗に、しかし噛み付く力は緩めてやらない。
柔軟性を持たせた保護材に、自身の歯がめり込むのを感じる。
その更に奥には内部外郭があり、細かな配線と、無数の管、重要な機能が存在していた。
沸き上がる残虐性を誤魔化すようにまた離れて、付いた歯形を、弾力性に押し返され
少しずつ元に戻る様子を眺める。そこを拠点に舌でなぞりあげれば、ふるりと戸惑うように震えた。
押し付けた機体が、目元を隠された頭部が、組み合わさった白い手が、藻掻く。
唇はもう罵倒の言葉を紡がない。
駆動も視覚も奪われて、しかし自由になった唇は苦しいのかただ荒く排気を繰り返す。
ふと、あらがっていた黄色い手が、何故か自身の頬へと添えられた。
不思議に思って首元から顔を上げれば、自身の手の下、覆い隠したはずの視線が
────自分でもどうしてそう思うのか理解できないが────真っ直ぐこちらを向いていると確信する。
そして、今更のように触れる温もりを暖かいと感知した。
そう感じる間に頬に添えられた手は後頭部へと回る。
次の瞬間、引き寄せられたと思うより先に、噛み付くように口付けられた。







おわり



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ