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目元を緩く指が掠める。
むず痒い感と、湧き出る悔しさにも似た苛立ちに少しだけ顔を遠ざけた。
しかし触れてくる手は気にすることなく、逃れた距離を平然と詰める。
制御のきかなくなった自身の機能を憎く思いながら、何か言おうとして唇を開いた。
どうして。と問い掛けるはずだった声はしかし形を成さず、ただ排熱しただけにおわる。
ああ畜生、と回路で零して、せめて視線から少しでも逃れようと顔を俯けた。
こんな至近距離では何も意味を成さないと知りながら。それでもと不様に藻掻く。
何で。
何で見るんだ。何で触れるんだ。何で見つかってしまったんだ。
何でどうして、よりによってこんな時に。
泣いてる時に。
見られたくなかった。こんな情けない顔。
触れられたくなかった。こんなしょうもない物。
曝したくなかった。こんなみっともない所。
自分はあなたのこんな姿、見ることも触れることも、知ることすらも出来ないのに。
片鱗すら、感じることも出来ないのに。
ちり、と走るパルスに唇を噛んだ。
なのにそんな思いなど知らず、目元から溢れる液体をまた優しく指が拭い取ってくれる。
苛立ちは確かに積もっていた。自身へも、相手にも。
しかし触れる温もりが惜しくて、苛立ちを覚えながらも自分はその手を振り払うことすら出来ないでいる。
なんて滑稽だろうか。回路が叫ぶ。
違う。
本当は。本当は自分はこうされたいのではないのに。
ほんの少しでいい。この目で、あなたの弱さを見たいのに。
ほんの僅かでいい。この手で、あなたの涙を拭いたいのに。
ただの一瞬でいい。この身で、あなたの頼りになりたいのに。
言いさえすればおこがましいと笑われると分かっている。
だというのに。
見ることも触れることも、知ることすらも許されていないのに、なのに相手から
無条件に、与えたいと望む優しい施しを受ける。
それにどうしようもなく甘えてしまう。
違う。違うのに。俺はあなたに与えたいのに。
なのに逆に、与えたいと望むものを与えられる。
違うと苛立ちながらも、与えられるそれにどうしようもなく満たされる。
目の前をまともに視認出来ないほどに役立たずの視界は、乱れるパルスか、
止まれという命令を聞かない液体のせいか。
近しいように見える距離が遠いのだと訴えても、あなたはただ首を傾げるだけだろう。
指がまた一つ、溢れる雫を拭い取った。




おわり



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