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ぐったりとした機体の表面を、ラインに沿って雫が辿る。なだらかな表面に跡を
残しながら伝うそれは、限界まで下ったところで重力に負け、名残惜しそうに地面へと落ちていく。
緩くアイセンサーを閉じて、排気とともに機体から力を抜く。
ぱたり、ぱたり、静かに聞こえるそれは雨音よりもずっと細やかで、零れた排気にすらかき消されそうだった。








「疲れた」
「バテ過ぎでしょう、あんた」
「うるせー俺はそもそも水中用じゃねんだよ」
「それで水路整備とかなんでやるんすかね」
「俺でも行ける水深だったからだ」
「ボスが手ずから整備ねぇ」
「見てやった方が手っ取り早いからな」
スネークマンの皮肉をさらっと流し、ぐったりと横たわる機体───フラッシュマンはまた一つため息を吐いた。
日が燦々と照りつける真夏日。
雲は頭上になく、遥か遠くに積乱雲が確認できる以外目に痛い程の青空が広がっていた。
遮るもののない日差しを受けた地面は酷く熱を持ち、しかし影になっている部分は
ひんやり冷たかった。そんな木陰で涼んでいたスネークマンは、連日の猛暑で
基地の水路のネジが緩んだのか水漏れする部位の修繕をした───そして今は
それが終わって寝転がって同じく木陰にいるフラッシュマンを眺めていた。
「オヒトヨシっつか、オセッカイっつか」
「喧嘩売るようになったじゃねーか。経費削減といえ」
「へいへい」
「何だ、機嫌悪ィなスネーク、どうした」
「さぁね、別に機嫌悪くなんてしてねえよ。ただ、悪いといえば、そうだな、あんたがね」
「?」
「そんな格好でごろごろすんのが悪いんですよ」
「はぁあ?」
予想外の言葉にフラッシュマンが思わず呆れた声を上げる。そんな前世代機体に
さらりと「濡れた格好でぐったりされちゃこっちも困るんでね、目のやり場に」と
スネークマンが肩を竦めた。「お前馬鹿じゃないの」と淡々と吐き捨てられるのも
そのままに、手を伸ばして青い色に触れる。
「冷て」
言いながら、ひたり、掌を背中から腰へとスネークマンが滑らせていった。
木陰で涼んでいたよりもずっと温度の低い表面は、季節故酷く心地いい。
そのまま手が腰部を撫で、───わざとだろう───大腿部まで辿る。明らかに
悪戯に似た意志を込めて、その手が緩くそこを掴んだ。
「ッ!?」
「んー、気持ちいい」
「っ…このッ…!」
上体を起こしあがりそうな罵倒を察知して、スネークマンはそれより早く唇を重ねた。
「んうっ…!?」
牙が軽くフラッシュマンの唇に引っ掛かる。釣り上がる口元はそのままに、声を発そうとした
隙間から舌を忍び込ませた。
足を触るのをやめて、水中の作業に余計にエネルギーと熱をとられて動きの鈍い機体を両腕で抱き締める。
舌を絡ませながら、青の頬を伝う名残の雫をスネークマンの尻尾が拭いとった。
機嫌を著しく害ねたらしい、至近距離の目元が苛立ちを訴えるのに、目を細めるだけの笑みを返す。
そのまま聴覚器、頸部と尾を翻して辿ると、戸惑うように青が震えた。



おわり

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