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視界に映るのは違う色。
掌に感じるのは違う熱。
回路に走るのは違う音。
コアが騒めき排気が苦しく、いっそリセットしてしまえば終わるのに、それでも離せないのは。
「……んだよ」
「…………別に」
冷たい視線、気だるげな声。
相手からの問いにそっけなく返せば、向けられる視線は冷たさを増した。きちりとコアが軋む。
しかし相手からすれば、すれ違いざまにいきなり自分に肩を捕まれて壁に押されたのだ、この反応は当然だろう。
恐らく、喧嘩を売られているとでも思っているのだ。そう考えただけでコアの痛みが増した。
─────そうじゃないと、喧嘩をしたいのではないと、────逆なのだと────
どうやったら相手に伝わるのか見当もつかない。
姿を見るだけで、声を聞くだけで動力炉が不自然に慌ただしくなる。走る脚は動きを止める。
そして焦がれるように何かに駆り立てられて手を伸ばし、傍にと望んでしまう。
だからこその行動なのだが、それをうまく言葉で説明できない。
挙げ句いつもいつも裏目に出て、自分と相手の距離は広がってしまう。
それが堪らなく苦しい。
別に補色ではないはずなのに、まるで相反するような自分とは違う色。相手の肩にかけた手が震えそうになる。
機体温も大きく違う自分と相手。それにすら、まるで拒絶されているようで排気が詰まる。
他に向けられる笑みも優しい手も、自分には与えられない。
何故なら、他が彼に与えるような笑みも優しさも、自分は持ち合わせていないからだ。
笑顔が見たくても、その引き出し方が分からない。自分が放つ言葉は冷たく、また表情もない。
優しくしたくても、そのやり方を自分は知らない。力に任せるばかりで、加減ができない。
そのせいで、相手は自分が相手を嫌っていると思いこんでいる。
ただの空回りと悪循環。
馬鹿だと思う。こうして苦しむなら、苦しいだけなら、苦しくなるだけなのなら、
抱いているものを早々と消してしまえば解決するのに。
そうすれば、もう、関わろうとすることも。そもそも関わる必要もなくなるというのに。
「………おい?」
ふと、冷たい指先が頬に触れた。
問い掛ける声からは刺が姿を潜め、覗き込むような視線とかちあった。
青い色の中、少し心配そうな表情が浮かんでいる。
「何だよ、調子悪いのか……?」
だから俺を止めたのか?
低く囁かれる、優しさが滲む声音に回路が思考するという役割を放棄する。
違う、と唇を動かそうとするのに動かない。
忙しないパルスは、こうして感情のリセットを忘れたままそれを育むことに専念する。
コアがまた締め付けられるように痛みを訴えるが、しかし先ほどまでとは違う苦しさが機体に走ったが嫌いではない。
今日もまたリセットできずにただ機体を焦がす熱に翻弄されるだけに終わる。
距離が広がらなかっただけかもしれないが、それがただただ嬉しかった。




おわり



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