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さらりと流れるそれが艶やかに光を返す。
随分と派手で量が多く何で絡まらないのか不思議だが、一本一本真っ直ぐに背にそって流れていた。
彼自身以外には、能動的には決して触れさせないもの。動くたび、その軌跡に従って揺れて目を引いた。





よく邪魔にならないな。
そう思いながら、故意ではなく、ただ受動的に手に触れてる髪に気持ち指先を滑らせた。
横たわった機体、絡み付くように緑髪が表面を撫でていく。温度をもたない為
ひんやりと冷たい感覚が、するりするりと包み込んだ。機体の向きを変えれば、呆気なく床にと流れ落ちる。
指からもつるりと離れていった。
ぞんざいということもないが、特段手入れをしている様子もない。しかし、元々汚れを厭う性質。
それなりにしているからの滑らかな感触なのだろうか。
ぼんやり思いつつ何となくそれを視線で追えば、不意についと顎に指がかけられて引かれる。
「っ……!!」
一瞬で機体が緊張に凍り付いた。
「……何だよ、アース」
まだ何か用か?
緊張に強ばったまま、それでも怠そうに呟けば緑髪の主人はいつもの皮肉げな笑みを浮かべる。
く、と顎がさらに持ち上げられ、頸部が曝された。そのまま、冷たい指先がつつ、と下へと辿っていく。

裂かれでもしたら機体にかなりのダメージとなる部位。自然、ひくりと震えた。
無茶な、暇潰しというにはあまりに一方的な交戦を終えた後の機体。
動けぬほどに深い破損はないにしろ、武器依存型の戦法の自分と瞬間移動と高威力のレーザーを駆使する相手。
火力で言えばマーズやウラヌスといった戦うに相応しい奴を選べばいいものを、
何故だか自分が選ばれ案の定機体はボロボロとなった。
なのに今頸部をもし抉られでもしたら、かなり厄介だった。
「もう終わっただろ…?」
疲れかダメージか、それても怠さか。擦れた声で視線を伏せると、触れる指先が離れて影が顔に掛かる。
次いで、ぱさりと冷たい毛束が何房か首筋をなぞった。擽ったさにぴくんと機体が勝手に跳ねる。
くつりと小さく喉がなった。何がおかしいのかと問うように目線をあげると、愉しそうなアースが見下ろしている。
「何、あまりに早く終わったのだ。もう少し、興じてみようかと思ってな」
「……?」
意味がわからず訝しげに表情を歪めれば胸部にきちりと指がたてられた。
「ッッ…!?」
ぎく、と機体が強く跳ねる。奥にはクリスタルが鎮座する位置。自分という存在の全てを司る部位。
そこに手をかけられたらという予想に、頸部に触れられたときよりも機体が恐怖に固まった。
「暇だろう?」
「…………」
問い掛けるようでいて拒否権のない命令を下すような声に、ただ沈黙を返す。
何をされるかわからない。分からないが、脅しかけられたということは、抵抗するなという意味。
つまり、抵抗しなければクリスタルには手をかけないという意味。
何をされるかわからないが、ならばもうただ寝転がっていればいいような気がしてきた。
ああ、面倒臭い。
ふ、と機体から力を抜く。そうして従属を現せば、アースはそれを汲み取ったように胸部から手を離した。
翻って指の背でなぞる感覚にセンサーがざわざわと刺激される。
動かず床に投げ出した掌を、緑髪が一束掠めていった。




おわり

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