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言葉で聞いたことなんて、それこそ片手で事足りるくらいかもしれない。
ふと気付いたその事実。
だからこそ無防備に歩いていた相手を捕まえて、急激に湧き出た不安を押し殺して、問いを口にする。
驚いた表情の相手は、すぐに呆れたそれに変え、いつものように口八丁で逃れようとするが、許さない。
自身を唯一捕らえる白い手に指を絡めて、空いている手は壁に付いて逃げ道を塞ぐ。
音が鳴ったためか、少し強ばった青い機体を壁に押しつけ、動きを封じる。
呆れ顔は困惑に変わり、戸惑いに揺れるアイセンサーは、こちらから視線を外した。
ひくんと、絡んだ白い指が緊張する。別に怯えさせたいわけじゃない。
そう思って、手の甲に唇を押し当てる。少し冷たいその感触。アイセンサーを少し閉じてじんわりしたそれを味わう。
確かに。
手を伸ばし、指を絡め、掌を合わせ、温度を確かめあう。
近づいてかかる排気がセンサーを擽り、より傍にと引き寄せる。
腕に抱いて腕に抱かれて、悪態を吐きながらも唇を束の間重ね、求めるように舌を合わせる。
熱と信号を交わして、はぜる思考の真空を共有している事実はあるのだけれど、それだけでは足りない。
仮に、これは自分の我儘が生んだ結果だとしたら。愚痴をたれるくせに妙に世話焼きの気質。
求められたから応じただけなのだという現実だったら、自分だけが酷く舞い上がっていたことになる。
そうではないと、一方的ではないと回路が告げるが、それが自身の強がりなのかと言われると自信がない。
だけどやはり分かっている。相手が、ただの我儘にその機体を許すはずがない。
ただの気紛れにこちらを引き寄せたりなど、受け入れたりなど決してしない。
しかし、言葉で聞いたことなんて、本当に殆どない。だからこそ不安が消えない。
言葉が欲しい。
そう思うのに、青い色は耐えられないように捩られ、それに苛立ち膝を割って脚を入れる。
目元に少し赤みがさし、唇が震え、少し切なそうな微かな排気がもれていく。
たった二文字。されど、何より聞きたい二文字。
その短い言葉が欲しいのに、言葉になる以前の、小さな擦れ声を零されてそこを塞ぎたい衝動に駆られる。
甘やかなそれに似たものを聴覚器が拾い、なんて卑怯なんだと回路で愚痴をこぼした。




おわり



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