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触れる熱に、堅いそれがとろりと僅か溶ける。
唇に付着するそれを、舌がちろりと舐めとった。そして思い出したように唇を薄く割り開く。
ゆっくりと咥内へいざなわれ、深いとは言えないが浅くも無いくらいにくわえられた。
濡れた唇が、室内の明かりのもとで艶を増す。覗く白い葉が、緩やかにそれに歯をたてた。



「もちっと普通に食えねーのお前」
「は?」
ぼりぼりと菓子を租借しながら、フラッシュマンが突然の言葉に首を傾げた。
同じく菓子を食べていたクイックマンが唇を尖らせる。
「だぁから、食い方。ぼーっとしてだらだら食って。苛々する」
「? んだよ、ただ食うの忘れて唇にあたってただけだろーが。暇な誰かさんと違って、
 こちとらデータ処理中なんでね。菓子だけに集中できません。つーか急いで食うもんでもねーだろ」
菓子をまた一本手に取り、フラッシュマンはクイックマンから視線を外した。
チョコに包まれた棒状のスティック状のこの菓子は、博士からの大量の差し入れだった。
故に、ナンバーズはそれを各々ありがたく賞味していりところだった。
お祭りごとや派手なことには飛び付きたがる癖がある父は、存外俗世的なことも好きなのだ。
「……いや、なんつーの、お前のその食い方さ」
言いにくそうに、クイックマンが切り出す。
「あーはいはい、だらだらしてて苛々するんだろ、聞いた聞いた」
「いや、正直言うとな」
「?」
「えろい」
「殺すぞ変態」
端的に呟かれた単語に、フラッシュマンが心底軽蔑するように唸った。
「誰が変態だ!」
クイックマンが即効で噛み付くが、フラッシュマンは冷たく「あー鏡はそこの右の引き出しな」と突っぱねる。
「くっそ、このハゲ…!」
人が折角はっきり言ってやったのに!!
「言ったからなんだっていうんですかー信じらんなーい意味わかんなーい」
「こいつっ…!!」
最早視線すら寄越さない青にむっとして、菓子を何本か纏めてクイックマンが噛み砕いた。
しかし、ふとフラッシュマンは手に持ったままだった菓子をクイックマンからも見えるようにかざす。
「?」
クイックマンが釣られて視線を向ける中、首を傾け視線を伏せたまま、ちろりと舌を出して這わせた。
そのまま下から上へ緩く蠢かせる。
「……!」
幾度かそれを繰り返し、とけたチョコレートを舐め取り飲み込んだ。ちゅ、と
横からスティック状の部分に吸い付く。
そして先端からくわえ、少しふやけたそれに軽く歯をたてた。少し力を込めれば、
それは呆気なくぽきんと軽い音を鳴らして折れる。
伏せていた視線が、ちら、とクイックマンに向けられた。
「食べ方がどうとかって、こんな感じのこというんじゃね?」
「………!!」
く、と喉の奥でフラッシュマンがからかうように笑った。その笑みにも仕草にもざわざわと
妙なパルスがクイックマンの回路を走る。沸き上がる悔しさに似た感情に、菓子をもつ手に腕をのばした。
そのまま捕まえて引き寄せる。しかしフラッシュマンは変わらずにやりと笑みを浮かべていた。
「お前マジでむかつくな…!!」
悪態を吐き、唇に添えられた先客を押し退ける。
甘くなったそこに誘われるまま、クイックマンが少し荒く口付けた。




おわり

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