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ああ。

熱い。

あつい。

アツイ。






ぐい、と軽く引っ張られる。
何だと見やれば、自分を白い指が捕らえていた。
弱々しいその指先は常より高い熱を持ち、助けを求めるように縋る。
その指を辿って視線をやれば、くたりと横たわる機体がいた。
半開きの唇からは弱々しく排気が漏れ、乾くのを防いでいるのだろうアイセンサーは
排出された洗浄液でしっとりと濡れている。
排気は浅く早く、目尻から今にも零れそうな水滴はこの僅かの間でも体積を増した。
視線はどうかと縋るように懇願を浮かべ、赤らんだ頬は今の状態を如実に物語る。
力が入らないらしい四肢は床に投げ出されながら、しかしもどかしげに捩られた。
自身の機体を持ち上げることも出来ないでいる様は、普段と真逆故に酷く加虐をそそられる。
「…っあ…………」
喉から擦れた声が僅かに聞こえ、聴覚器に届くと同時に回路がざわりと震えた。




「お前、暑いなら何で空調切って部屋に籠もってんだよ!!?」
「空調…があの温度…一定でなきゃ…成分が変質しちまう…からよ…」
「だからってオーバーヒート寸前ってふざけんなよハゲ!」
「…るかったって…。あー。助かった………」
じゃぶり、音を立て、フラッシュマンがゆったりと浴槽の淵に捕まる。
基地内の洗浄室。冷たい水を溜めた浴槽の中にフラッシュマン、床にクイックマンが立っていた。
ぐったりと水に機体を委ねるフラッシュマンを見ながら、クイックマンは苛々と指で腕を叩く。
フラッシュマンは先程まで自室で何やら研究だか実験だかをやっていた。
そこにクイックマンは用があって訪れたのだが、普段開けろと通信し、そして
部屋の主人の承諾がないと決して開かないドアが前に立っただけで開いたのだ。
何事かとクイックマンが室内に足を踏み入れれば、ドアの傍に倒れていたフラッシュマンに
足を掴まれ、そして青い機体の熱が少々溜りすぎオーバーヒート間近なことを知った。
そしてその弟機体を水風呂にぶちこみ、今に至る。
「ったく、おまえ俺を運び屋かなんかかと勘違いしてんじゃねーか」
「だぁから、悪かったって。あーでも、さっきの結局振り出しに戻ったくっそ…」
ぴちゃり、フラッシュマンが冷えた手を自身の額に当てる。指の隙間から見える
アイセンサーは心地よさげに閉じられ、伝う水滴が朱のさす頬と唇を濡らした。
ふう、と熱を散らすように排気が漏れ、力が抜けた手はずるりと水の中へと戻る。
「…ふん。仕事熱心もいーが反省しろよな!」
「んー…」
「…………」
まだ外が明るい時間、窓から入る光で充分見えるが、洗浄室の光源は点けていないため室内としては薄暗い。
そんな中、くったりと力なく水に浸かり時折四肢を動かして熱を散らそうとする姿から、
クイックマンは何となく視線をそらす。膝を立てるだけで、普段から見慣れている筈の
大腿部が濡れている所為もあって艶めいて見えた。
しかし視界から外せば水音と密やかな排気が聴覚器に届くのだ。
────正直一方的に煽られているようで、とても気に食わない。




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