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ただそっと触れて、ひたすら愛しむように。荒く噛み付いて、声すら全て奪うように。
相反したそれらを、彼はよく好む。時と場所を考慮しない点は酷く遺憾に思うが、
その高い熱は嫌いじゃない。そう思いながら今は黙って目蓋を閉じていく。
今日は、どうやら前者のようだ。
いつも通りに前置きなく突然してきたそれを、しかしここが二機しかいない室内故に、
無抵抗に施しを受け入れた。
だというのに、彼の時を奪う白い右手は、施しをされるより先に押さえ込むように取られている。
いちいち掴むなと言いたいが、しかし聞き入れることはないだろうとぼんやり思った。
その右手をつかむ指は酷く強引なのに、どうしてか幼子が縋るのに似た弱さを感じ、
結果、互いのそれは握るように絡み合う。指先が、きゅ、と丸まって甲に食い込んだ。
いつも捕らえんばかりにこちらを拘束する彼。
そのくせどこか置いていかれることに怯えるような、妙な空気を毎回感じる。
逃げてなんていないだろうと、告げる言葉の代わりにその滑らかな唇に緩く舌を這わせた。
施しはすぐに後者へと移り変わる。
言葉を求められているのだとは、何とはなしに気付いていた。しかし、彼だとて
求めることを言葉にはしていない。否、恐らく無意識下に感じているのだろう
漠然とした不安を抱えているだけで、それを行動に表しているだけだ。
言葉にされていない。明確に求めてはいない。
だから、言ってなど、言葉にしてなど、やらない。
これは狡さか、或いは別の何かか。
絡む舌に思考は掻き消えてただ鈍る。
より高まる熱さに、指を強く握り締めた。



おわり

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