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かつりかつりと響く足音。
何かを追い掛けるようにその歩幅は大きく、移動速度は速い。
まるで走りだす寸前の勢いのそれは、辛うじて歩いていると言えるような姿だった。
飢えを誤魔化すように、乾く唇をちろりと舌がなぞる。
光源を抑えた薄暗い廊下の中、アイセンサーが一際鋭く輝いた。



「よう、帰ったかクソ野郎、お疲れさん」
ほれ。
誰かがラボに入ってきたのに背を向けたまま、フラッシュマンはモニタから
目を離さずに手に持ったE缶を差し出すように揺らした。ちゃぷん、と中身が鳴る。
それを見て、パシュ、とドアが背後で閉まるのを感知しながら入室してきた鮮やかな
赤い機体、クイックマンは「はぁ?」と不満そうに眉を潜めた。
「飲みかけかよ」
「てめえがもう帰還してくるとは思ってなかったからな。文句あんなら自分でとってこい」
俺は今忙しい。
そう締めて、フラッシュマンは肩を竦めた。手に持ったE缶をかたりと台に置き、
モニタから外さない視線は忙しなく流れる0と1を逃さないように追っている。
時刻は、日付がかわりそうな深夜。
フラッシュマンは現在進行形で何かしらの仕事中で、対するクイックマンは任務を
終えて帰還してきた所だった。自身に背を向けたままの青に歩み寄りながら、
クイックマンはじろりとねめつける。労るにしろ何にしろ、せめて一瞥くらい
すればいいものをと思うがフラッシュマンは相変わらずモニタと顔を合わせていた。
全く可愛げのない。
(…………)
ラボの灯りが外から見えたため部屋に戻らず足を運んだというのに、期待外れだが
ある意味予想通りで普段通りの青にクイックマンは内心舌を打った。
────会いたくて、声が聞きたくて。この青に触れたいと飢えてここに赴いたのだ。
そう思いながらふとクイックマンが見ると、手元の台には先程のE缶と何やら愛らしい包装の、
小粒のものが数個転がっている。
「あんだそれ」
「あ? あー、これあれだ、メタルの差し入れ。お前のお嫌いなチョコだよ」
「は?」
「ほれ、もうそんな時期だろ、色男?」
「…バレンタインか」
「ピンポン。今回のでまた増えるかねーもてる方はお辛いねー」
声を堅くするクイックマンに、フラッシュマンがにやにやと笑みを浮かべた。
クイックマンは、彼自身の趣味でもあるカーレースに出場して度々優勝するため、
その外見と相まって酷く人気者であった。それだけなら何も問題ないのだが、
今の時期は世に言うバレンタイン。この時期、ファンから彼への贈り物の数は
基地に溢れ返る程で、クイックマンはチョコレートは嫌いではないが正直バレンタインが苦手であった。
そして今回のクイックマンの任務とは、まさに大量の贈り物をもらう原因でもある
レースで賞金をとってくることであった。





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