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つ、と目の前にかざしたそれを、数秒無感情に眺める視線。
伏せ気味のそれが、ちろりともの言いたげに少しだけこちらへ向けられた。
それに無言を返せば、彼もまた沈黙をもって答えを返す。
再度視線を目の前にかざした棒状のものへ戻し、彼は少し頭を下げた。
唇を薄く開き、隙間から歯列を覗かせる。そしてかざしたそれに、かしりと軽く歯をたてた。
支えるように舌が添えられる。緩く蠢き、僅かに光を返す艶でしっとりと濡れていることを知らせた。
顔の位置はそのまま、彼がこちらへと視線をよこす。
心なしか、噛む力が強まる寸前、鋭さを増すようにアイセンサーが細まった。









「うめえ」
「そーか」
ぼりぼりと、差し出された菓子を咀嚼しながらフラッシュマンが感想を述べる。
それに返答しながら、当の差し出した本人、クイックマンが素っ気なく返した。
場所はフラッシュマンの部屋の中。
デスクに向かいぐだぐだと写真データを整理しているフラッシュマンと、その傍で
何故か青い機体に菓子を差し出すクイックマンがいた。
夜半いきなり尋ねてきて、そして今はデスクに軽く腰掛けて菓子を差し出すという
よく分からない行為をしている二つ上の兄機体を、フラッシュマンが不思議そうに見上げる。
「にしても珍しいな、てめえが菓子持ってくるとか。明日は火の玉が降るな」
「おいそこはせめて天候で有り得るものからもってこいよ」
「突っ込むとこそこかよ。つか用ってマジそれだけなわけ?」
若干呆れながら、フラッシュマンは赤い手が未だ持っている菓子へと口元を寄せる。
「そーだけど何だよ」
「いやマジで意味が分からねーからよ」
うめえからいいけど。
言いながら、青い機体はまたぼりぼりと菓子を食べた。
赤い兄機体が持ってきたのは、棒状のスティック菓子をチョコレートでコーティングしたもので
ポピュラーだが、故に飽きが来ないものだった。
相変わらずいきなりでよく分からん奴だとぼんやり思いながら、フラッシュマンは
ピントがぼけている写真データを削除していく。
そんな弟機体を少し眺め、クイックマンはくるりと部屋を見渡した。所々が半端に
ごちゃごちゃしていて、片付いているようで片付いてない部屋だ。
そしてこの部屋は、中に主人がいようといまいと、本人以外のアクセスでは
ドアが開かないという何とも厄介な特性を持っていた。
否、最初からそんな機能がついていたわけではなく、フラッシュマンが施したのだ。
しかしそれは言い換えれば、中に入ってさえしまえば邪魔が入らないことに繋がる。
ワイリーなら施錠プログラムを破って無理矢理入ることは可能だし、またドア自体を
破壊してしまえば邪魔が入らないなんてことは絶対ではないが、このようなケースは
世程のことでもないかぎり起きはしない。
がり、と咀嚼する音に、クイックマンは青い色へと視線を戻した。




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