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□不公平
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「珍しいな、こんな時間にお前が起動してるなんて」
「……んだよ、わりいか、ほっとけや。ただ気分転換してっだけだよ」
姿を見付けた時に思った事をクイックマンがそのままいうと、フラッシュマンは
少し憮然とした声を四兄に返した。すると、弟の言葉にクイックマンは、ん? と
首を傾げる。
「気分転換だけのためにわざわざ早起きしたのか、お前? 意味分からん」
自由人の三兄やマイペースな七弟、そしてこの六弟は兄弟機の中でも特に朝早く
起きる事を苦手としていた。早寝早起きを得意とする自分ならいざ知らず、
こんな時間に彼がここにいることがイレギュラー過ぎる、とクイックマンは
不思議そうに弟機体を見る。
すると、その視線に答えるようにフラッシュマンは軽く肩を竦めた。
「早起きじゃねーよ」
「はぁ?」
「俺昨夜寝てねぇの、ずっと起きてたんだよ、仕事でな」
だから気分転換に写真撮りに来たんだ、分かったか?
そう言って、フラッシュマンは再びファインダーを覗き込んだ。
クイックマンはその弟機体を見ながら、驚いたような、呆れたような声をかける。
「寝てないとかマジかよ、お前バカなんじゃないか、なぁおいハゲ?」
「誰がバカでハゲだこのアホデコが。俺は仕事で忙しいんだ、てめぇと違ってな」
「俺と違ってってお前、それじゃ俺が暇みたいじゃないか。俺昨日まで任務だったんだぞ?」
「基地じゃ暇だろ、前線任務がない待機時にゃ俺と違って仕事ねぇし?」
「なっ…! でも時間を無駄にするような事はしてないぞ!」
「あー、ハイハイ分かった分かった。今ピント合わせてるとこだから黙ってな」
「む……」
「…………」
「…………」
四兄の反論を軽く流し、フラッシュマンは木々を撮る事の方へと意識を持って
いった。パシャリ、とまた音が鳴る。澄んだ静かな空気の中、シャッターを
切る音がいつもより大きく聞こえた。時折鳥が囀り、緩やかな風に煽られた
草木が小さな音を立てる以外には、森の中はとても静かだ。
そんな中で会話が途切れてしまったので、クイックマンは何となく居心地悪げに
黙り込み、つい、と視線を弟機体から背ける。静かで動きのない空間は、彼は
苦手だった。すると、クイックマンのその動きに気付いたフラッシュマンが再度顔を上げる。
「あ、おいクイック、もー行くならちょい待ち」
「? 何……」
別に立ち去ろうとしたわけではないが、呼ばれて見やるとクイックマンの
視界には自身を見つめる弟機体の顔と、自身へと伸ばされた白い右手が映った。
その手はクイックマンの左頬に添えられるように伸ばされ、そのまます、と翻り、
軽く撫でるように接触して、しかしすぐに離れる。
数瞬遅れて既に手が離れた後、左頬に与えられたその僅かな感触と温もりを
クイックマンが感じた。




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