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先程から会話が途切れて以降、クラッシュマンはジョーに静かに視線を注いでいる。
ジョーは、フラッシュマンの兄機体が、そうして自身をじっと眺めてくるのが落ち着かないのだ。
その視線に何故だか居たたまれなくなり、しかし言葉にすることも出来ず黙り込む。
何か、隊長の兄機体に自分は無礼を働いたのだろうかとジョーは考えた。
そんな部下の様子に、フラッシュマンは小さく溜め息を吐く。
「……クラッシュ」
「………」
「おいこらシカトか、俺の部下睨むんじゃねぇよ」
「睨んでない、見てるだけだ」
「それを止めろってんだよ。…よし、これでいいぞ。動かしてみな」
ジョーの装甲を元に戻し、フラッシュマンが調子を見るよう部下に促す。
ジョーは言われた通り左腕を曲げのばしし、幾度か手を握ったり開いたりして
正常であることを確かめた。その様子を眺め、フラッシュマンが笑みを浮かべる。
「大丈夫みてえだな」
その言葉に、ジョーは嬉しそうに自身の隊長を見上げた。
「はい、ありがとうございます、隊長!」
「おかしくなりゃまた言えよ。直してやる」
「は、分かりました。では、持ち場に戻ります、ありがとうございました」
言いながら椅子から立ち上がり、ジョーはフラッシュマンとクラッシュマンに頭を下げた。
フラッシュマンの左腕のメンテナンスは終わっていないが、それに手を出せる
ほどの機能はジョーにはない。
ならば、一刻も早く本来の仕事に戻る事が部下たる自身の役目だ、とジョーは弁えている。
「おう、気ぃ付けろよ」
律儀な部下にそう言いながら、フラッシュマンは笑みを浮かべたままジョーの
頭をぐりぐりと撫でた。
そんな弟機体と部下のやりとりを、やはりクラッシュマンはただ眺めていた。
部下が去るのを見やってから、フラッシュマンは自身の左腕のメンテナンスを再開する。
開いたままのドアは、ナンバーズか、このラボの主人であるワイリーのアクセスでしか開かない。
部下が出入りしやすいために、フラッシュマンによってラボのドアが現在開いた
ままに設定されていたのだということに、クラッシュマンが思い至った。
「…なぁ、弟よ?」
「あ? メンテの手伝いなら遠慮すんぜ、兄弟」
「ちぇ。…って、そうじゃなくてさ」
「あんだ?」
「部下と仲いいんだな」
「そうか? まあ、悪いよりゃいいだろーが」
「まぁな」
「よっ…と。おっしゃ、終わり」
会話しながらも内部回路の修正を終えたらしく、フラッシュマンが自身の左腕の装甲を元に戻した。
そして、未だ背後に立っているすぐ上の兄に向き直る。
「…で、何か用か?」
「いや、ただ何してるのかと思って、見に来ただけだ」
「なら人の部下睨むなっつーの」
言いながらやれやれと溜め息を吐き、フラッシュマンが立ち上がった。



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