鰤
□ひかり。
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「ごめんね…黒崎くん」
ポツンと呟く。
いつもの[黒崎くん]だった。
なんだか泣き出しそうな顔だった。
私、【虚圏】に自分で来たのに、沈みっぱなし。
罠だって、判っていたのにね。
これじゃぁ、何のために来たのか判らない。
でも、考える時間はたくさんできた。
いい事も良くない事も。
今まで誤魔化していた事も。
怖くて逃げていた事も。
見ないフリしていた事も。
だから
ごめんね、黒崎くん。
「待ってられないや…」
ホントは、ずいぶん前から気づいていたんだよ。
自分のしたいコト。するべきコト。私しか出来ないコト。
『大事なのはどうすべきか。でなくて、どうありたいか。ですよ』
【破面】のハッチさんの言葉。やっと、ようやく、意味が解ったの。
「気づいちゃったんだ。黒崎くん…」
私の戦い方。
たくさんの人に守ってもらって。
黒崎くんにもたくさん守ってもらった。
「今度は私が戦う番……だね」
たくさん、守りたいものがあるんだよ。
それが罠だとしても、罠なら…壊せばいいから。
そっとヘアピンを髪から外す。
「決めたよ」
生前、お兄ちゃんから貰った唯一、最後のプレゼント。
襟元に2本ともつけ、私の内にささやく。
「…お兄ちゃん…」
私の中のどこかで、お兄ちゃんが目を開ける。
「オリヒメ…」
昊は寂しそうに呟くと、静かに片手を突き出す。
繊細な陣が幾つも廻る。
「六花…解除」