鰤
□…待ち合わせ?
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遠くで虚の気配がする。
暫くして、慣れた霊圧がすごい勢いでそこに向かうのが解って、思わずニヤけてしまった。
井上織姫は慌てて手にした雑誌で口元を覆う。
>>>>…待ち合わせ?
珈琲スタンドの一角。お気に入りの、温かいキャラメルマキアートはすっかり冷めていた。
オレンジな頭の霊気の主と、こんな怪奇スペシャルな関係になるとは思いもしなかった。
しかも、自分にもそんな【力】が生まれるとわ。ちょっと徳した気分。
だって、実体も霊体も結構離れているのに、すぐ近くにいるカンジなんですよ?!
霊圧がスゴイから、よけい近い感じ。スゴイよね「よぉ」うん。
声まで聞こえちゃう「本、逆さ」ん?逆さ…ホントだ。
背後から見覚えのあり過ぎる腕が2本、にゅ〜っと伸びて雑誌の向きを正す。
そろ〜り、ゆっくり首をまわして。
「「Σ!!!!?」」
顔!近いです!黒崎隊長!!
びっくりしたのは黒崎くんも同じ。
声はなんとか抑えたけど、椅子から落ちそうだった私を支えてくれた。
「悪い」
座り直しつつ「ありがとぅ」と言いかけ、近くの席のおばさんと目が合う。
笑ってごまかす。
「…大丈夫?」
「はい。ちっちゃいハエにびっくりしちゃって…」
「いや〜ねぇ、外から入ってくるのよねぇ…」
私とおばさん。
ぼんやり談笑してる横に「…小バエか、俺わ!!」
ごめん。黒崎くん…君【普通の人】に今、見えてないから…
珈琲スタンドを出て。
もし、[見える人]がいたら。
オレンジな頭の、ダラけきった弓道部員が大きな包丁背負って、ショッピングモールをふらふらしてる…カンジ。の黒崎くんは、現状をかなり楽しんでいるみたい。口元、ニヤけてるよ?
そう、さっきの虚の所に行ってずいぶん早いなって思ってたら、アフロの死神が先にいたんだって。
「…よくココ、判ったねぇ?」
通路側にあるピンクの、可愛いフワフワのトートバックを見ながら、こそっと聞く。
「ん…勘。」
きっぱりと。
す、すごい勘です。それとも行動パターンがバレてるの?
「あ、そこ曲がる」
黒崎くんが、くっと指先で指示して、人が少ない所を通っていくと裏道に出た。