APH*

□忘却の壺
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『勉強を見てくれる』と云われたので早速、指定された部屋で小難しい本抱え解読しつつ待つ事にした。

相変わらず外はしんしんと雪が降り続け、窓枠に高く積り外界を閉ざす。
暖炉の薪がはぜる音が響く部屋で書物と睨みあう。この部屋には一度来た事がある。
ドイツが勉強で使っている場所だ。

本は異国の言葉が幾つも綴られ読み解くのに苦労する。
話す言葉なら“国”としての能力である程度理解できるし、慣れは必要だが話す事も出来る。
しかし文章は難しい。どのような内容かと意味を何となく頭に感じるものの、別に読める訳ではない。
難し文章になれば正確に解釈する事は出来ない。

教わってある程度話せる分、読めないのだと云うのが巧く人に理解して貰えない。
その点、同じ“国”であるあの人は理解してくれるだろうし“世界語”という共通語もある。
だから彼の申し出は非常に嬉しかった。




「おぅ!待たせたな!」
「いえ、先に始めてましたので」

乱暴に靴音を響かせ冷たい外気と共に入って来たプロイセンは、日本が書き写している自国語と混ざったメモを一目見るなり
「綴り、違う」
と、外套を脱がないまま違う色のインクで直していく。

そして文章や文法等、私が混乱している点などを聞き淡々と説明した。
彼の教え方はとても簡潔で解り易く“武闘派”と聞いていたので大変驚いた。


『気が荒く乱暴で、かの信長公のように恐ろしい方だと聞き及んでいます』


ウチのエライ人は、私自身が出向く旨を伝えると必死に押し止め
『行くのならば英国へ』と薦めた。
英国の法も素晴らしく、私たちは少ない財を工面し2手に別れ留学する事にしていたからだ。
少しでも面識がある眉毛の元が安心だろうという配慮だろう。

しかし、駄目だと言われるとその方を選びたくなるモノ。
双方を直接知るオランダさんは普国を薦めてくれた。
少し私に似ている所があると云う。



昨晩も私の非礼を許し優しく接して頂いたのだし、本質はとても優しい方なのだろう。
見た目は『鬼』のようだが。

彼の家の言葉に難のある私へ、語学と法の勉強を分けようという提案に迷わず頷く。
ウチの人が学び選んでいく事だが“国”である身としては、彼等の考えをきっちり理解し補える知識量がどうしても欲しかった。

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