APH*

□貴方の名が覚えられない
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暖炉に火を入れ日本にマントを巻き付けたまま、
「暫く解凍してろ」
上着を椅子の背に放り投げ奥の部屋に引っ込んだ。

火がまわって徐々に大きくなる様子を、歯の根をガチガチ言わせて眺める。
パチパチと爆ぜる音を聞きながら、少しずつ温かくなって来るのを感じた。
凍りついた魚が戻る時、きっとこんな気持ちなのだろうな。
震えが収まってくると、服やら髪やらがじっとり濡れているのが気になった。
マントもかなり濡らしてしまったようだ。マントから肩まで這い出て再び潜り込む。
外気は冷たい。

あぁ、私は何をしているんだろう。
お邪魔している国で救助までされ。
っていうかこの部屋は一体……私が与えられた部屋ではない。

使っている部屋よりも壁も天井も柱も装飾は簡素、調度品は質素だが上品で落ち着いた雰囲気。
自分が置かれている敷物は……なんだかお高そうっ!

「おっもしれーカタチになってんなぁっ、おぃ」

楽し気な声が聞え視界が覆われた。
視界を奪った布とマントに苦戦しジタジタと蠢く日本を暫く、ニヨニヨと意地悪く眺め
「悪ぃ悪ぃ」
プロイセンは救出の為マントと布をを剥ぎ取る。
コロン。と転がり出た日本は自身の両腕を抱え震えた。

「っ……ぁあっ!さ・む・いぃっ!」
「とりあえず、拭け」

更に面白い日本の様子に必死に笑いを堪え、グリグリと頭を拭いてやる。
そうして現れた表情が弟に似てると思った。
遥かなる歳上のハズだが。

「脱げ」
「ほぁっ?」

ようやく乱暴な手から解放されたとたんの台詞に、間の抜けた声が出る。

何か聞き違いでもしたか?

しかし、次はそれが聞き違いでない事を日本は理解した。というよりさせられた。

「服だよ、服!全部脱げ!!」

完全な命令口調で衣服を剥ぎにきた。
体格の大きさを利用し抑えられたが、日本は激しく抵抗した。
「ごるぁぁあっ、抵抗すンなっ!」

するに決まってる。
何故、剝かれなければならない?

「何故っ!!っ止めて下さい、何をっ」
「っめぇなぁ!ウチの寒気様ナメんなっ?!そのまましたら凍って体温奪われちまって、天国に収監されるだろがよぉ!」
「っなら!そう仰って下さいっ」

彼の体を引きはがそうと蹴り上げた足が、プロイセンの顔面にクリーンヒットした。

「あ」
「つっぅ……てめぇ……」

鬼のような顔が更に凶悪に歪んだ。
滲み出る怒気に逃げ出したくなったが、なんとか根性をひり出しプロイセンを睨む。
遥か遠くの小国とはいえナメられる訳にはいかない。

「申し訳ありません。ですが着物は自分で脱げます。手伝いはいりません」

きっぱりと言い切ると凶悪な顔のまま上から退いた。

「そぉかよ。そりゃ残念だ」
「お心使いは感謝します」


とりあえず礼を云い寒さに震えながら、乱れた上衣を軽く直し袴の紐を解き始めた。が、椅子の肘に腰掛ける、機嫌悪そうにガン見する視線に手を止める。

女ではないから構わない、と云えば構わないのだが。
自分と反対の方向を指で示し

「むこう、向いててくれませんか?」
「んで?いーじゃねぇか、野郎同士だ」
「なんか嫌です」

ケッ。と片眉を上げ椅子を回すと、言う通りにこちらを背にどっかりと腰を下ろした。

「……心外だぜ。変態と一緒にされんのわ」
ぼそっと呟いた口調が子供のようだ。

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