APH*

□事後報告編
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「荒療治のつもりでした。記憶が無くとも、ちゃんと話せばプロイセンは理解してくれるでしょう。しかし、今回私はあまり長く滞在できませんし、記憶を早急に戻して頂なければならない理由が出来てしまいました。てっとり早く勝負してみるのが良いと思ったのです」

「だからって真剣なんて、無茶苦茶だよー。怪我だってするし痛いし。心配したんだよ?」

申し訳ありません。と頭を垂れる日本の背を抱きイタリアが覗き込む。
その自然な気安さが時々羨ましい。
やたらベタベタと触りまくるイタリアをなんとなく眺めていると、ニヨニヨと人を小バカにした兄の嫌なニヤけ面と目が合い睨みつける。

「で?勝負はついたのか?」
兄に聞いたつもりだったが、応えたのは日本だった。
神妙に伏せていた顔をあげ嬉しそうに
「私の完敗です。やはり師匠は強い」
やけにキラキラした瞳で兄を見上げる。
先までの無表情はどぅした?

「当然だな!流石は俺様、カッコぅいーとか思っちゃったろ?」
「はい!とても格好良かったです!」

「ぇ……それは日本」「いや、それは日本」

ほぼ同時にイタリアと発した言葉の先が続けられず、伸ばした腕の所在に困る。
日本のこーゆ所が、兄を甘やかし増長させているとオレは思う。
しかも本気でそう思ってるから始末に負えない。

「で?戻して欲しい記憶ってどの辺だよ?」
「兄さん!!」

流石にソレはない。

掴みかかりジャーマンスープレックスでもかけてやろうとしたが、するりと避けられた。

「おぉ?落着けってヴェスト。禿るぞ」
「禿たら兄さんのせいだ!戻して欲しい記憶なん全部に決まってるだろぉがっ!!アンタがトレーラーに喧嘩売って吹っ飛ばした記憶全部全てだっ」

「トレー……あ・あぁ!アレ。アレね、本気でビビるぞ?やったら視界クリアでよぉ。迫って来るドライバーの表情とか観察出来ちゃってさ。凄ぇぞ?超瞳孔開いちゃってよぉー、悪魔かなんかに見えたっぽいんだよなぁー俺。つーか……“英雄の薬”とか使ったらあんなんだろーな?日本」

「理論上はそう云われてますねぇ」

うーんと唸り日本が答えると、ピッと指先をオレに向け
「お前も今度やれっ!!」
「誰がやるかぁああぁっ!」
殴りかかった腕にイタリアが縋りついた。

「ヴェ?ヴェヴェ?ちょっと待ってドイツー!ねぇねぇねぇ!プロイセン、どうして轢かれたか覚えてる?ねぇ」
「どぅって?子供3人ジャラつかせた乳母車押す女に、車が全力で突っ込んでだな」

「!っプロイセンっ?!」
淀みなくイタリアへ返答する言葉の意味を理解した日本は目を見開いた。

「そうだよ!日本!ドイツ、ドイツっ。ドイツの兄ちゃん、“戻ってる”よ!“戻ってる”ってばぁー」

腕にしがみ付いたまま、興奮気味で体を揺するイタリアのなすがままに呆然と立ち尽くす。

えー……何が、何だって?


「へ……ぇ?戻ってんの?」

よく判らないような表情のまま兄が聞くと
「そーだよ!“戻ってる”んだよ!プロイセン。よかったぁ―、ほんっとによかったぁ。ねぇドイツ」

がしっと抱きついて、変な声で盛大に泣きだしガンガン体を揺する。
ガクガク頭を揺らしながら、兄のいつものニヨニヨ笑いを眺める。

「そうかー、よかったなぁ?!イタちゃん!!」




こうしてオレは兄の記憶が“戻った”事を知った。
記憶喪失を知った時同様、兄のペースに振りまわされたまま。
少しは違和感とかないのだろうか?
通常運転にも程がある。

「ふふっ……一応目的は達成出来た。のでしょうか」

ホッと小声で呟く、嬉しそうな日本の頭を無言で撫でる兄が目に映る。

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