APH*

□上巻
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控えめなノックの後、官僚の一人が顔を覗かせた。
ゆっくり立ち上がり部屋を出る。
2人に手続きと医者との話を、大きな分厚い封筒に入った書類や写真を受け取り報告を受ける。

彼らを見送ってドアに手を掛けた時、聞き覚えのあり過ぎる声が静かな廊下に響いた。


「るぅぅうーーーーっとぉぅっ!」
「げ、イタリア?!」

勢いよく走って来たイタリアは呼吸を整えつつ、険しい顔でドイツを睨んだ。
どんなに激しい戦争でも見せなかった表情。
こういう顔をすると兄ロマーノと良く似ていた。

「ど・どうした?」
「どーって?ソレはオレが聞きたいなっ!ドイツの兄ちゃん、車に轢かれたんだろ?誤魔化してもダメ。日本に聞いたんだ。なぁんでオレに連絡しないのさっ!オレとドイツのカンケーってそんなモンだったのっ?!悲しいよぉー!オレわぁ!」

いつも異常に、早口でヒステリックに喚く声は廊下にかなり響き渡っていて、慌ててイタリアを抑えつける。

「あーっ!落着け!とにかく入れっ」

口を塞ぎ強引に病室に引き込む間も、何かを喚いていたが聞き流す。
内容は聞かれても問題ない。
“世界語”という“国”の間で使われる言語で、“人”は理解が出来ないから。


「ったく。ここがどーゆ所か判ってるか?!病院だ。走るな、喚くな、ナンパをするなっ」
「ナンパはまだだよ?」
「後でもダメだ!」
「なんで?女性を見たらとにかく口説け!男の“タシナミ”じゃんっ」
「オレの所は適用外だ!」

ムキになって声を張り上げ、慌ててベッドを見るが変化はなかった。

「……日本からの連絡の割には早いかったな?」

声を顰め聞くと、ベッドへ視線を向けたままイタリアも声を顰め頷く。

「ドイツん家遊びいく途中だった」
「なぁ……お前ン家、いま大変なんだぞ?」
「オレとにぃちゃんが騒いだって、どうにも成らないないよー。なら空いた時間楽しくした方が絶対いいよ?パスタはリンパ液、ピッツアもリンパ液、女の子は栄養源、ドイツのムキムキも栄養源」
「オレを混ぜるな」

相変わらず静かに横たわる兄の姿をイタリアが指さす。

「兄ちゃん。血、付いてる」
「暴走車にケンカ売ったからなぁ」
「頭、包帯っ」
「強く打ったらしい。軽傷だから大丈夫だ。意識が戻って診察して問題無ければ即、退院できる。だとよ。……今以上、馬鹿が進まなければいいのだが」

溜息をつき、先程受け取った封筒の中身をイタリアにチラつかせたが、彼は兄の方を見たまま首を振った。

「ね?ドイツはどうしてそんな落ち付いてられるの」
「?どうした……」
「オレはね。ドイツの兄ちゃんがこんな風に寝てるの嫌だよ!にぃちゃんやドイツだったら、どーしていいか解らない。戦争じゃないんだよ?ねぇ、なんで落ち付いてられるのさ。ドイツの兄ちゃんなんだよ?」
「イタリア、兄さんは軽傷だ。そんなに心配する程……」

感情的になったイタリアを落ち着かせようとした言葉は、当人によって遮られた。
何が気に入らないのかオレに怒っているらしい。イライラと首を振りドイツの胸元を叩く。

「傷の大きいとか小さいは関係ないっ。日本がオレに連絡したイミ、全然解ってないよ。ドイツ、どうせ泣けないからオレが来たの。兄ちゃんが事故って悲しいのに、解ったつもりで片付けて知らんふりするから、代わりにオレが泣いてやりに来たの!わぁった?!」

ドンドンと胸元を叩きながら叫ぶ声の後半は涙声で、ヴェーヴェーと妙な声で本当に泣きだした。

「おい……」
叩く腕を捕えようして弾かれる。更に強く叩いてイタリアはしがみついてきた。
「っうっさい!」
「スイマセン……」
情けないがこういう時は嵐が去るのを待つしかない。

“自分で解ったつもりで片付けて知らんふりする”

図星を指された、気分だ。それで思い出した。
それは幼い頃、兄に対して抱いた自分の気持ちだと。
目覚める気配もない兄を見る。

あまり似ていないと言われるが、変な所が似てしまったようだ。大きく息を吐いた。

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