APH*

□拉致ってやんよ!
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「兄さん、24日は?」

ソファーに踏ん反り返り、何やら古めかしい小難しそうな本を読みふける兄へ問う。
24日。
クリスマス・イヴの話だが、兄が予定を入れず暇にしているだろうというのは判ってる事だった。

兄には“友人”はいない。

正確には“友人と思われる”人物はそれなりにいるんだが、本人が“友人”と認識していない。
他人と交わるのが苦手らしく、基本的に自分から予定を埋める作業はしない。
それでも聞くのは念のため。
長年、弟をしているが未だ何を考えているか解らない。

視線を本に向けたまま「なして?」煙草の灰を落とした。

「スペインから聞いただろ?皆でオーストリアんトコに集まろうって」

ん〜……そーだっけか?こめかみを指で掻き、ようやく赤い目がこちらを向く。

「悪ぃ。俺行かねぇわ」
「……またオンラインで“祭”だから。というのは認めないぞ?」

予想外な返答に、ありえそうな理由をあげる。
兄ならありえる。だいたいクリスマスにネットでゲームってないだろ。
十字軍だぞ?この人。
まぁ、宗教に熱心じゃない辺りからオカシイんだが。

「違ぇんだなー。あぁ、18日から出掛けるからよ」

ニヨニヨと煙草を振り思い出したようにほざき立ちあげる。
18日って……明日じゃないか?初耳だぞ、ソレ?

「は?明日じゃないか」
「だな」
「だな。じゃなくて、さ……ウチにそんな本あったか?」

かなり前から気になっていた書物は見覚えがあるが。
今更、古書を兄が引っ張り出すとは思えなかった。

「ねーよ。眉毛の忘れ物、結構面白いぞ」

奴の本といえば怪しげな魔術書しか思いつかんのだが。

「イギリスのって……え?待ってくれ、兄さん。18日から何処へ行くんだ?」

部屋から出ようとする兄を慌てて呼びとめる。怪しい本より大事な事を聞いてない。
兄は廊下から顔だけ覗かせニヤリと口元を歪めた。

「ナイショ」

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