Hyotei

□帰路、君と
1ページ/1ページ



――今日は、ついていない。


『明日、部活ないんでしょ?そっち行くから待ってて』

『お前、部活は…』

『俺も休みなの!だから、どっか行こうね』


日吉は会議室で頬杖をつきながら昨日の夜に掛かってきた電話を思い出していた。
部活も休み、となれば気分は少し良くなる筈なのだが。


「(…リーダーなんて誰かやればいいだろ)」


生憎今日は急に会議が入ってきた。
それも何も決まっていない状態からのスタートだ。
リーダーの仕事が一番面倒なのが目に見えているため、一向に話が進まない。
司会者もほとほと困り果てているようだ。
可哀想だとは思う。だが自ら進んで仕事を引き受けるということはしない、
とでも言うように日吉は頬杖をつきながら時計を睨んだ。


「(…切原、もう来てるよな。なんで今日に限って携帯忘れるんだ)」

ふと時計を見てみるとさっきまではどんよりと曇っていた空から雨が降っていた。

「…立候補が無い様なので、指名します。指名された人は快く引き受けてください」


ついに司会も痺れを切らしたのか、強行手段に出た。
司会と委員長が小さな声でやり取りをしている。

「(なんでもいいから、早く終われ…)」

日吉は苛々しながら時計を見ている。
もう既に、約束の時間からは40分経過していた。

「……では、日吉君お願いします」

「…え?」

日吉は思わず聞き返した。
まさか自分が指名されるとは思わなかったからだ。
とにかく後からの仕事が面倒だが、断る理由でも空気でもない。
一刻も早く会わなければいけない、という焦りしか出てこなかった。
司会を5秒ほど睨みつけると、相手は顔が少し青ざめているようにみえた。

「…わかりました」

「あ、ありがとうございます…で、では、会議を終わります」


終わったと同時に他の人から安堵の声が漏れた。
日吉は急いで荷物を引っつかみ、玄関に向かって走っていった。
雨は、まだしとしとと降り続いていた。
すばやく靴を履き替え校門の外を見渡す。
そこにはひとり、雨に濡れて立っている立海の制服を着た姿がいた。

「っ切原!」

「日吉く…ハックシュ」

大袈裟に手を振りながらくしゃみをする切原に日吉は急いで駆け寄った。
鞄からタオルを取り出し、切原の頭に被せる。

「日吉くん、タオル汚れるよ」

「…そんなのいいから、行くぞ」

「え、行くってどこに?」

「決まってるだろ」

日吉はまた自分の鞄を漁り、黒の折り畳み傘を取り出す。
パッと開き、二人の頭上から雨を遮った。

「ほら、早く行くぞ」

「え、あ、うん」

切原は少し戸惑った顔をしたあと、人懐っこい笑顔を見せた。
そしてほんの少し顔を赤く染めながらふたりは歩き出した。

「…遅くなって、悪かった」

「うん、心配したんだよ。…会議あったんでしょ」

「なんで知って…」

「校門で待ってるとき忍足さんに会って教えてもらった」

日吉は驚いた顔をして、小さく舌打ちをした。
明日は絶対からかわれるな、と呟きながら。

「はぁ…まぁ、いい。…俺が悪かった」

「傘持ってくれば良かったなー…ま、日吉くんと相合傘できたからそれでチャラね」

「なッ…」

「へへ、かーわいい」

傘の所為で暗いにも関わらず、顔が赤いと判断できるほど日吉の顔は赤くなる。切原は憎らしいほどの笑顔で日吉の照れた顔を見つめ、愛しさを感じた。

「ッ…黙れ!」

「いだっ、手加減してよ!」

「うるせぇ!お前が変な事言うからだッ」

「もー!素直じゃないなぁ」

端から見れば、男子中学生がじゃれ合いながら帰路についているのだろう。
本人にしてみればこの帰路はきっと。

「なんか、いいねこういうの」

「は?…なにがだよ」

「一緒に帰るってさ、普段できないでしょ?だから、ね」

灰色の雲の切れ間から太陽が覗いている。
光が反射して、水浸しの帰路がきらきらと輝いていた。
きれいだね!と傘から出てはしゃぐ切原を見て呆れるように日吉はため息を吐いた。
人間、いい事があると嫌なことなんて吹っ飛ぶんだろうか…などと考える。
なんとなくそんな気がするな、と思った。

少し先を行く切原の姿を見ながら誰にも気付かれないように日吉はすこし笑った。


END.

*  *  *  *
(あとがき)

飛び出せ!青春
キリヒヨは中学生の恋ってかんじがします


08.12.02

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ