Hyotei

□付き合い始め
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跡部さんのしつこい攻撃についにやられて、3日目。
未だに、実感がない。



【付き合い始め】



「あ、の…跡部さん」

「あーん?なんだよ」

「いい加減離して下さい」

「そりゃ無理だ」


部活も終わり、着替えて帰ろうとロッカーの前に立っていると後ろから抱きしめられた。
その状態がかれこれ10分は経過している。実に中途半端な格好で、いい加減離して欲しい。

「…じゃあ、着替えさせてください」

「もう少しこのままでいろ」

この人には本当に叶わない。
小さなため息を吐き、できるだけ暴れまわっている自分の心臓の音を鎮めようとした。
自分だけが跡部さんを意識してる、なんて絶対に気付かれたくはないから。

「…日吉」

いきなり肩を掴まれ、至近距離で向かい合う形になる。
蒼い瞳が、じっと俺を見つめる。

「な、んですか…」

「…」

跡部さんは無言で抱きしめ、耳元でこう囁いた。

「……愛してる」


瞬間、俺の顔は一気に熱を持つ。

「…ッ…」

「くくっ、可愛い反応してくれるじゃねぇの」

笑っている吐息が耳を擽る。
その感覚に自然と肩が上がった。
ひとつだけ、気になることがある。
ひとつだけ、不安なこと。

「…あのッ…聞いても良いですか?…」

「なんだよ?」

俺の顔を覗き込むように蒼い瞳がきらりと光る。
ほんの少しの勇気を振り絞って、震えそうな声を抑えて言った。


「なんで…俺のことが、その…す、好き、なんですか…」


最後の言葉がだんだん小さくなり、顔がすごく熱い。
跡部さんは少し驚いたような顔をして、すぐに優しい笑顔を見せた。


「…んなもん、俺だってわかんねぇよ。ただ、お前が好きになった…それじゃ駄目か?

…なんなら、証明してやるよ」


そしてニヤリと、悪巧みをするように口の端を吊り上げた。
この笑い方をするときは、なにかしら悪いことが待ち受けている。

「え、あのッ…んっ」

跡部さんの腕の中から逃げようとするもがっちりと掴まれ、拒絶の言葉を言い切る前に何かにふさがれた。
その何かが、跡部さんの唇だと気付いたのは数秒経ってからだった。


「証拠が欲しかったんだろ?…俺様は本当に好きな奴としかキスしねぇよ」

そしてまた、端正な顔を歪めるのだ。
きっと今の俺の顔は耳まで真っ赤になっているのだろう。


「…だから、余計な心配すんな。俺にはお前だけだ」

「……ッ」


火照った顔を背け、跡部さんの腕の中から逃げる。
後ろから、聞きなれた低めの笑い声が聞こえた。

「日吉は俺様のどこが好きなんだよ?」

着替えを済ませようとしていると唐突に質問される。
こんな質問に答えられるか。
恥ずかしくて死にそうなのに。

「……教えませんッ」

殆ど叫ぶように答え、制服のネクタイを結ぶ。
跡部さんがまた後ろから近づき、耳元で囁いた言葉に本気で殴りたくなった。



END.

*  *  *  *
(あとがき)

跡部様の頭に羞恥心というものはないのだろうか
…と思った一作。


08.11.
09.01.11加筆

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