Hyotei

□髪留め
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部室で本を読んでいると、忍足さんと向日さんが絡んできた。


「おい日吉ー!見てミソっ」

 
向日さんは前髪を上げ、ピンクの飾りのついたゴムで結んでいる。
忍足さんは、後ろを一まとめに結っている。


「なんですかその悪趣味なゴムは…」

「かわいいやろ?だからヒヨにもつけたろ思ってな」

「結構です」

「いーからいーから!お前、前髪ジャマじゃねぇの?」


確かに前髪は少し長いと思うが、別に気になるほどでもない。
それに、この2人の怪しい笑顔を見てるとなんだか胸騒ぎがする。


「ちょっ、こっち来ないで下さいっ!」

「よーし、侑士!腕押さえてろよ!」

「頼むで、岳人」

古武術でなんとかなるとは思うが、一般の人に技を使うのは危険だ。
それに、今暴れたら本が犠牲になってしまう。
趣味の悪いハート型のピンが一刻と迫ってくる。


「い、やぁッ…!」

情けない声が出たと同時に、跡部部長が入ってきた。


「…てめぇら、俺様の日吉にナニやってんだ、あーん!?」


物凄い形相で迫ってくる。助けてもらうのはいい。
というかこの状況をなんとかしてほしいが。



「いつアンタのものになったんですかっ!」

もしかしたら余計に煩くなってしまったのかもしれない。

「ちょ、待てや!これはやなっ…」

「うるせぇ!覚悟はいいな」

「違うんだって跡部!だからっ」

「あーん?…ほぅ、そういうことか」

「な、跡部も見たいだろ?!」


3人でこそこそと話し合っている姿に嫌な感じがする。
話がまとまったのか、一斉にこっちを向いてニヤリと笑った。

「な、なんですかッ…その笑いは…」

もういい。とても身の危険を感じる。
一般人だろうが、自分の身体を守るためなら容赦なく行かせて貰う。


「なぁ、日吉…」


跡部さんが声のトーンを低くしてぐっと顔を近づけてくる。

「ちょ、離れてくださ…ッ!?」

後ずさろうとしたら誰かに足を取られ、近くにあったソファーに倒れこむ。


「う〜…誰ぇ?」


何か柔らかいものを踏んでしまったことで動揺し、思わず馬乗りの体制になる。


「え、あ、すいません!」


ソファーに寝ていたのは芥川先輩だった。
急いで退けようと身体を浮かせる。


「あー、ひよだC〜!」

一気に覚醒して、浮いた身体が芥川先輩の手によって引き戻される。

「あ、芥川先輩…ッ離してください!」

「ひよ、顔赤いよー?」

「ジロー!離れやがれ!!」


ジローずりぃ、などと言ってなんとか引き剥がそうと奮闘している。
すると赤ちゃんを抱っこするみたいに後ろから抱きかかえられた。


「日吉、大丈夫?」

「おっ、鳳…」

「ったく、激ダサだな」


振り返れば鳳と宍戸さんがいた。
助かったことには変わりないのだが、顔が赤くなる。

「ジロー先輩…?日吉が困ってるじゃないですか」

「チョタ、邪魔しないでくれる〜?」


二人の周りにどす黒いオーラが漂って見える俺はきっと重症だろう。


「忍足、今だ!」

「わかっとるわ」


呆然としているところにピンを持っていた忍足さんがさっと俺の髪を触る。


「…どうや?可愛いやろ」


あっという間に視界が明るくなる。

「さすがだな、似合うじゃねぇの」

「ホント、可愛いよ」


嬉しくもなんともない。
というか男の俺に似合うとか可愛いとか言うのはおかしくないか。


「…嬉しくないです」


芥川先輩も髪をいじっていた。慌てていて全く気が付かなかったが。


「どうや、視界がクリアに見えるやろ?」

「…忍足さんには言われたくありませんけどね」

「侑士、片目ちゃんと見えてんのかよ」

「ちゃんと見えとるで」

「忍足さんのほうが必要に見えますけど」

「ひよが似合うからそれでええよ」


読書をするときとか、あの人たちに見られないんだったら普通のピンを付けてもいいか…なんて考える。
こうして、落ち着きのない日々が過ぎていくのだった。


―END―


*  *  *  *
(あとがき)

日吉の前髪ピン留めに激しく萌えたので


08.10.25

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