Hyotei

□ジレンマ
1ページ/1ページ



「おい、ひよ……」


ソファーに横たわっているのは、可愛い俺の恋人だった。

「…日吉?寝てるのか?」

返事はない。ただ、ゆっくりと上下に動く胸を見ると熟睡しているのは確かだろう。
先刻までは日吉は本を読んでいて、俺は部誌を書いていた。
さっきちらっと見たときは読書をしてた筈だ。

「……すぅ」

気持ち良さそうな寝息を立てながら猫のように丸くなる。


「(…可愛いじゃねぇか…)」


いつもは俺を睨むばっかりの鋭い瞳も閉じられ、薄く開いた唇に目が吸い寄せられる。
思わず手を伸ばし、さらさらの髪を触る。


「…ん…」


驚いて撫でていた手を一旦止める。
起きる様子は、まだない様だ。
いつもだったら「離してください」なんて云って速攻手を払いのけるんだろうな。
とするとこれは、ちょっと得した気分だ。


「…くそ、早く起きねぇと襲っちまうぞ」

可愛い。確かに可愛い。
というかもう天使並だ。
だが、こんな無防備に寝られてしまったら理性がヤバイ。
誰だって、男は狼なのだ。


「おら、…起きろよ」

いつ俺の理性が崩壊するか分からないので声をかける。


「…んー…」


ちょっと眉をしかめ、うるさいとでも言うように体勢を変える。


「…本当に襲われるぞ」


正直、俺の理性は脆いのだ。
今だってキスしたくてたまらない。


「(どこのガキだよ、俺は…)」


そう思ってふっと嘲笑う。
相変わらず俺を悩ませる当の本人は夢の住人だ。
くそ。まじで襲うぞコラ。
起きたら起きただ、仕方ない。
覚悟を決め、そっと熟睡している日吉に顔を近づける。

この胸の高鳴りは気にしない。

「(どこまでヘタレなんだ…俺様というものが)」

虚勢を張っても仕方がない。
そして、眠り姫にそっとキスをした。

「…ん…」

シャンプーの香りが鼻孔を擽る。
ようやくうっすらと眼を開けた。


「起きろ…お姫様」


そういって完全覚醒のためのキスをもう一度。


「あ、跡部さん…っ!?」

「ようやく起きたな、姫」


顔を真っ赤に染め、何か言おうとしているが言葉が出てこない。
そんな慌てぶりに笑みを洩らすと、赤く染まった顔できっと睨んできた。
それが逆効果だということを、いい加減学んで欲しい。


「さて、帰るぞ」

「ちょっ…待ってくださいよ!」



「俺、結構寝てましたか?」

「あぁ、可愛い寝顔を見させてもらったぜ」

「・・・・・・・っ」


キスするかで散々迷ったことは秘密だ。
寧ろ、襲わなかった俺の理性に感謝すべきだと思う。

まぁ、いいか。
いつもとは違う表情も見れたしな。

と納得させつつ俺の隣を歩く可愛い恋人を見つめた。




―END―


*  *  *  *
(あとがき)

ヘタレ跡部様の試練
やっぱり男は狼なんです^^


08.10.12
09.01.11加筆

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ